12月17日8時半に移動中の列車の中で急逝したとされる北朝鮮の金正日総書記。急性心筋梗塞と発表された死因は、額面通り受け取っていいのだろうか。
北朝鮮の公式発表では、奇しくも死亡場所が2004年の列車爆破テロ事件と同じ列車内とされたため、韓国内では暗殺説が囁かれている。12月20日付の東亜日報は「最も疑問が残るのは列車内で死去したこと」と疑問を提示し、体調の悪い金正日が列車で各地を移動して現地指導を続けたことは理解しがたいとしている。同日付の毎日経済も「誰かに殺害された可能性もある」と暗殺説を掲載した。
もちろん、こうした暗殺説を否定する声もある。例えば、北朝鮮人民軍の情報部出身で脱北者の李正成氏(仮名)は本誌の取材にこう答えている。
「金正日に死期が迫っているのは誰の目にも明らかで、わざわざ危ない橋を渡って暗殺しようとは思わない。それでも暗殺疑惑が生じるのは、北朝鮮側の『列車内で死んだ』という話が嘘だからだ。金正日は“夜行性”で、午前中は活動しない。体調も悪いのに氷点下の朝に現地指導をするなどまず考えられない。衛星写真でも列車が動いていないことが確認されている」
病院で死んだと言うと人民に対するイメージが悪くなるので、現地指導中に死んだことにしただけだ、と李氏は指摘する。
それでも指導者が亡くなるたびに暗殺説が取り沙汰されるのは、それほど北朝鮮という独裁国家の体制が、一見強固に思えても、常にその内部に暴発の種を抱えていることの証である。
独裁者は宿命的に暗殺の恐怖から逃れられない。独裁国家のトップの座を引き継ぐ金正恩は、祖父から父へと引き継がれた金一族への「憎しみと暗殺の連鎖」に怯える日々も、同様に引き継いでいくことになる。
※SAPIO2012年1月11・18日号