アジアで、そして世界で存在感を増し続ける中国。一方、先細りに見える日本。2012年、両国の関係、そして地位はどうなっているのか。ジャーナリストの富坂聰氏は、振る舞い次第では日本がアジアの盟主としての地位を確立し、新たな成長センターをリードする役割を果たすことができるという。以下は、富坂氏の解説だ。
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間もなく2011年が終わろうとする12月9日、中国のいまを象徴するようなニュースが飛び込んできた。それは韓国の排他的経済水域(EEZ)内で違法操業をしていた中国漁船を取り締まろうとした韓国海洋警察の警官一人が中国人船長によって刺殺されたというニュースだった。
実は韓国EEZ内での中国漁船の密漁問題は、もう2年ほど前から深刻な状況にあり、許可証の偽造や偽国旗の使用、または問題発覚後の船による体当たりや鉄パイプなどで武装して抵抗するといったようにエスカレートし続けていた。
そうした中で起きた今回の事件だけに、いよいよ一線を越えたか、との印象は拭えないのだが、これの何が中国のいまを象徴しているのかといえば、大きく分けて二つある。
一つは、中国が力を付けた(主に経済力)ことによって従来ならば中国国内だけに止まっていたはずの中国の無法ぶりが、中国に近寄らない外国人にとっても身近になったという現実だ。とくに日本では「武装して警官と戦う」といえば、まず「特殊な訓練を受けた」といった発想につながるが、決して彼らはそういう人々ではない。
逆に言えば自分たちの利益を侵されている(実際には逆だが、彼らはそう受け取っている)と思えば命がけで抵抗する現実は中国では珍しくない。
つまり外国から見ればとんでもないルール違反も国内では生き延びる術として許されるといった一種のパーセプションギャップが輸出される時代が本格化するという意味だ。
そしてもう一つが、こうした中国に接した周辺国との間で、「やっぱり中国は……」といった認識が共有され始めたということだ。これこそ対中外交における2国間から多国間への変化であり、今年1年を象徴する出来事だ。
南シナ海問題をめぐって、膨張を続ける中国に対して東南アジアがまとまって交渉を始めたことや、日本が参加を検討しているTPPもある種の側面では中国に対するけん制が含まれている。実際、日本のTPP参加検討の動きに刺激されたように、これまで停滞していた日中間FTAの交渉がにわかに活発化したという事実もある。
いずれにせよ中国政府にとって今回の海洋警察間刺殺事件は重い。一対一で向き合えば御しやすい国々が、いよいよ中国に対して複数で力を合わせて対抗するとの流れに向かい始めたのだから当然だ。これでは中国が周到に考えた「こっそり巨大になる」という外交戦略も、骨抜きになってしまうだろう。
こうした事態に日本はどう向き合えば良いのか。言うまでもなく日本にとって対岸の火事と処理できる問題ではない。そのことは12月13日、海監50という最新の警備艇が東シナ海の巡視を始めている事実を見ても明らかだ。
だが、気を付けなければならないのは中国と韓国の対立に便乗してどちらかに肩入れすることも外交上決して得策ではないということだ。そうではなく南シナ海であれ黄海であれ、対立の仲介者として日本が多国間交渉の主催者になることを目指すのが最も理想的な展開だ。
2012年、振る舞い次第では日本がアジアの盟主としての地位を確立し新たな成長センターをリードする役割を果たすことができる。そんなチャンスが降ってくる年でもあるのだ。