由紀さおりのボーカルが、世界の人々の心を揺さぶったというニュース、実は一番驚かされたのは日本人だった。声量や音域の幅でいえばマライヤ・キャリーやビヨンセやレディー・ガガの足下にも及ばない彼女が、世界中を魅了したのはなぜなのか。そこに、2012年、日本が世界でどう振る舞うべきかのヒントがあると、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は指摘する。以下は、山下氏の視点である。
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さて、辰年の今年はどんな一年になるのでしょう。龍は雲雨を自在に操る水神であり、四神(白虎、朱雀、玄武、青龍)として都の守護神でもあった存在です。ぜひ龍の神様に、今年の私たちの暮らしを守っていただきたいと願います。
今年の展望について考える時、「ささやく声」に一つのヒントが見つかるのではないかと私は感じています。『1969』というアルバムで世界中を魅了し、大絶賛されたあの「ウィスパーボイス」に。
由紀さおりさんのボーカルが、世界の人々の心を揺さぶったというニュース、実は一番驚かされたのは日本人でした。
声量や音域の幅でいえば、日本人の声なんて、どんなにうまい歌手であっても欧米人の足下に及ばない。マライヤ・キャリーやビヨンセやレディー・ガガを見れば、一目瞭然です。
そうした迫力のある声に日々接している欧米人が、なぜ今、日本人のウィスパーボイスなのか?
2011年を振り返れば……欧州の経済危機、民主化の波を受けた中東の政治動乱、中国のインフレ懸念、アメリカで頻発した反格差デモ。そして日本では大震災に原発事故。かつてないほど社会と大地が揺れた一年でした。
それは、世界中の人々が「限界」に目覚めた年でもありました。グローバル化しすぎた金融経済、中央集権化し膨れあがった政府と財政赤字、一極集中化する都市、巨大化する発電施設等に対して、「もはや希望を抱くことはできないのだ」と思い知らされた一年。
「大きいことは、いいことだ」という時代は遠くに去りました。今や、「大きいこと」はリスクそのものである。
次なる可能性は、「小さく」「繊細で」「弱く」「柔らかく」「しなやか」なものの中にこそ、あるのではないか。
少なくとも、今の巨大な固まりをなんとか分散化し、分権化し、単位を細かくし、それぞれが自立し、人が実感的に扱えるサイズに戻していく。危機に対して、それが安心を得るための処方箋ではないか、と感じている人が、世界中にいるのではないでしょうか。
由紀さおりブームは、おそらく、世界中が「小ささ」「かわいらしさ」「細かさ」「しなやかさ」「弱さ」に関心を示している、ということと無関係ではないと私は感じるのです。
彼女の個性は、小さく「ささやく」声だけではありません。丸くて白くて小柄で、まるで日本人形そのもののような姿。日本発の世界語「カワイイ」を体現しています。
「小さいものって、みーんなカワイイ!」と、1200年前にすでに指摘していたのは『枕草子』の清少納言でした。そもそも日本人は、小さくすることが得意だった。小ささの中に、美や価値を感じとる感性と文化を暮らしの中で育んできたのです。
もう一度、「小さいこと」を肯定的にとらえる。そこに、2012年の可能性が開けていく、とは言えないでしょうか。