いまだ出口の見えない欧州金融不安だが、その出口には「新時代の幕開け」が待っている、と予見するのは、元ドイツ証券副会長・武者陵司氏だ。2012年の世界の金融情勢がどうなるのか、武者氏が解説する。
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2012年は、過去に前例のない、主要国の政府・中央銀行による壮大な金融緩和が実施された年として、歴史に記録されるのではないか。
まず、米国では「QE3」(量的金融緩和第3弾)が実施される可能性が高いと見ている。現在、企業業績は高水準を維持しているが、米国の景気回復は散漫な状態が続いている。これは、サブプイム・ショック、リーマン・ショックによって引き起こされ、長引いている住宅市況の低迷が主因だ。QE3はその住宅市況に喝を入れ、景気回復を実感できるレベルにまで引き上げるために行なわれる。
実際、FRB(連邦準備制度理事会)の幹部からはQE3導入を示唆する発言が相次いでいる。住宅市況が改善するまで資金を投入し、住宅ローン債権の購入を続け、ローン債権の価格を押し上げる――、インフレとともに雇用と景気にも責任を持つFRBは、すでに不退転の決意を示しているのである。
その結果、米金融市場にはリスクテイクの大きな波が復活し、景気回復を強力に後押しすることになるはずだ。
この米金融緩和は、日本、EUのさらなる金融緩和を後押ししよう。QE3はドル安につながる。放置すれば、円高、ユーロ高となり、日本とEUの景気に一層の悪影響を及ぼすことになるからだ。
すでに、EUは緩和姿勢を明確にしている。ギリシャ危機に端を発したEU各国の債務問題を解決するために、2010年に創設した欧州金融安定化基金(EFSF)の融資能力を、4400億ユーロ(約46兆円)から1兆ユーロ(約105兆円)へ拡充する方針を打ち出した直後、ECB(欧州中央銀行)は利下げを敢行した。
EFSFの拡充策の柱として、EU各国政府が保証するEFSF債を発行して、投資家から資金を集め、金融市場で流通する国債の買い支えや、資本不足の銀行に資金を投入することが認められた。
つまり、債務問題に対処するために、ECBがEU各国の国債を購入する姿勢を示したのであり、また、銀行が負担すべき損失の公的肩代わりを可能にしたのである。
この債務問題がイタリアやフランスなどの中核国へ波及することを阻止するために、EFSFの機能再強化策が検討されているが、米国のQE3の可能性が高まれば、再強化策がより緩和姿勢を強めるものになるだろう。
さらに、イタリア、フランスなどに危機が飛び火し、ユーロ金融恐慌が現実化する事態になれば、EFSFとECBは未曾有の金融緩和に踏み出すはずだ。
金融市場の一部には、すでにEUの破綻は不可避であるとの見方もあるが。それは正しくないのではないか。なぜなら、国債を買い支える側の中央銀行は、“紙幣の印刷”という無限の弾薬を持っているからだ。であるならば、危機が克服されるまで、資金の投入を続けるに違いない。これが壮大な金融緩和の意味である。イタリア危機が現実味を帯びたいま、危機の克服はかえって早まる可能性さえある。
翻って日本だが、2011年10月末に円売りの為替介入を実施したように、政府・日銀はようやく本腰を入れ始めたように見える。この介入規模は約8兆円と想定されており、過去最大だった前回8月4日介入の4.5兆円を大きく上回っている。現状、この介入以外には見るべきものはないが、先に述べた米欧の超金融緩和と円高圧力を受けて、さらなる金融緩和を実施するのではないか。
したがって、日米欧による“究極のグローバル金融緩和”が、2012年にかけて行なわれることになる。そうした金融情勢をうけ、世界的な需要開拓が実施され、次の景気回復を準備することになるだろう。
※マネーポスト2012年新春号