金正日体制から金正恩体制へと移行を始めた北朝鮮。金正日は自らを中心に周到な管理システムを築いたが、指導者としての経験が圧倒的に不足する金正恩はどのようにそれを死守していくのか。そこに必要なのは「カリスマ性」だが、果たして金正恩がどのようにしてそれを築いていくのか…。ジャーナリスト・惠谷治氏が、カリスマ性を作り上げるべく北朝鮮がもくろむ脅威を予測する。
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金正恩はまだ28歳。政治力も権力闘争の経験も圧倒的に不足しており、周囲の補佐や支持が必要不可欠だ。「核のボタン(安全装置解除コード)」は、金正日の路線を引き継ぐ先軍政治派が握っていると考えるべきである。
先軍政治派とは金正日が最も信頼を寄せた実妹・金慶喜(党政治局員)、そして生粋の軍人である朝鮮人民軍総参謀長・李英鎬を中心とグループだ。全てにおいて軍事を優先し、人民軍など武装勢力の掌握によって体制を維持しようとしている。
核のコードを握った先軍政治派が、今後どのような動きを見せるのかについて触れておきたい。
彼らが限られた資源を注ぎ込むのは「核の小型化」と「長距離弾道ミサイルの実用化」である。
これまで先軍政治派は、担ぎ上げるべき金正恩の「後継者としての実績づくり」に注力してきた。李英鎬が中心となって作戦立案した2010年の韓国・延坪島砲撃などの軍事的冒険から、今後は「指導者としての実績づくり」へと段階が変わるだろう。
祖父である故・金日成のカリスマ性の源は、抗日パルチザン活動での戦闘経験であった。金正日は核実験の成功とミサイル発射実験で父親を乗り越えた。そして金正恩がそうした業績に肩を並べるためには、北朝鮮が未だ成し遂げていない「ミサイル弾頭に据えられる核の小型化」と「アメリカ本土に到達するテポドン2号の完成」しかない。
これらの計画は粛々と続けられている。先軍政治派が実権を握ったままであれば、北朝鮮という国家は近い将来、さらなる国際社会への脅威としてその存在を誇示することになるだろう。
※SAPIO2012年1月11・18日号