東日本大震災の復興に必要な10兆円を超す財源をどう確保するか。震災直後から真っ先に議論されたのが「増税」である。所得税、法人税、たばこ税、住民税……様々な名前があがり、「増税でいいのか」という“そもそも論”より、何を増税すべきかばかりが議論された観がある。では、世界では大きな自然災害が起きた時どうしたのか。アメリカの例に学ぶ。
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これまで日本では、1995年の阪神・淡路大震災を含め、大きな自然災害が起こった時、その復興費用は60年で償還する建設国債を中心とする国債の発行で賄ってきた。阪神・淡路大震災の被害額が約10兆円だったのに対し、今回の東日本大震災の被害額は約17兆円と推定され(内閣府防災担当の推定)、その分多くの復興費用が必要だとはいえ、果たして増税が最善の策なのだろうか。大きな自然災害に襲われた諸外国はどう対処したのかを見てみよう。
日本と同じ先進国で、東日本大震災同様、広範囲に渡って大きな被害が出た自然災害としては、2005年8月、アメリカ南部のルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州などを襲った超大型ハリケーン「カトリーナ」のケースがある。ハリケーンは事前に到来が予測されるため、死者こそ東日本大震災よりはるかに少ない1800人余りですんだが、家屋の倒壊が35万戸に及ぶなど被害総額は1250億ドルに上った(被害額は国連機関である国際防災戦略の発表)。アメリカ史上最悪の自然災害であり、復興費用は700億~1300億ドルと推計されている(まだ復興が終了していないため推計の数字になる)。
アメリカ議会はカトリーナの直後に2度の補正予算を成立させ、計623億ドルの対策費を計上したが、もともと「小さな政府」を標榜し、減税によって景気浮揚を図る主義だった当時のブッシュ政権は増税を行なわなかった。逆に、被害の大きかった地域を指定し、その域内で様々な税制優遇措置をとった。
また、こうしたこととは別の観点から採用された復興策もある。カジノの規制緩和だ。カジノに関するシンクタンクである株式会社国際カジノ研究所所長の木曽崇氏が説明する。
「実はミシシッピ州は全米でも有名なカジノ集中地域だったのですが、法律上、川の上でのみ営業が認められ、必然的に河川や湾岸沿いの桟橋にカジノの立地が集中していました。そのため、カトリーナにより壊滅的な打撃を受けてしまいました。そこで、カジノ法を改正し、陸上でも営業できるように規制緩和を行なったのです。その結果、カジノの売り上げにかかる税収が増え、カジノが呼び水となって様々な民間資本が流入し、雇用も創出され、観光産業も盛んになるという、いくつもの効果が上がったのです」
国際カジノ研究所がミシシッピ州の各種統計を調べたところ、同州は災害後から2010年まででカジノから1500億円余りの税収があり、カジノによって2万5000人余りの雇用が生まれていた。
実は日本でも、カジノを解禁し、そこからの税収を大震災の復興財源にあてようという案があり、超党派の議員連盟「国際観光産業振興議員連盟」が将来の法案提出を検討している。「全国に10前後のカジノ特区を設ければ、税率次第で年間2000億~3000億円の税収が見込める(ちなみにミシシッピ州の場合、州税が8%、市町村税が3.2%)」(前出・木曽氏)という。カジノの解禁は反対論も多いが、検討課題のひとつだろう。
※『サラリーマンのための安心税金読本』(小学館)より