日本の法人税率は世界的にも高く企業の国際競争力の足かせになっているとの指摘もある。大前研一氏が世界の状況と比較しながら法人税の問題点を説明する。
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日本の法人税は効率が悪い。その理由は、まず、払わなくて済む仕掛けがたくさんあるため、捕捉率が非常に低いことだ。また、実効税率が40.69%とアメリカと並んで世界一高いため、企業は生産・販売拠点の海外移転を加速している。さらに、そもそもこの国にはマーケットとしての将来性がない。人口が減れば、おのずと消費が萎むからである。日本企業が、国内では適当にやって海外で一生懸命稼ごう、と考えるのは当然だろう。
日本の新規国債発行額が増え続け、国の借金が約920兆円(2010年12月末現在)にまで膨らんでいる要因の1つがそこにある。すなわち成熟国になったのに所得税や法人税などフローに課税する「成長期の税制」のままになっていること、「成長期の税制」から「成熟期の税制」に変えていないことが、日本の税制の最大の問題なのである。
前述したように、日本の法人税はアメリカと並んで世界一高いわけだが、他の国々は企業を海外から呼び込むため、また自国から流出しないようにするために引き下げ競争を繰り広げており、実効税率の世界標準は25%に収斂しつつある。
たとえば、ドイツは38%台から29%台に引き下げ、いずれは25%にするとアナウンスしている。移動が自由なEU諸国内では法人税率が高いと、企業が本社を法人税率の低い国に移してしまうからだ。
とくに有力企業の国外流出が目立つのはスウェーデンだ。かつてスウェーデンの法人税率は50%だったため、重電のアセア(現ABB)が21.17%のスイスに、イケアや化学のノーベル(現アグソノーベル)が25.5%のオランダに、それぞれ本社を移転した。今でこそスウェーデンも28%に引き下げたが、時すでに遅しである。
ちなみにフランスは33 .33%、イギリスは28%、フィンランドは26%、デンマークは25%、アイルランドは12.55%だ。アメリカ企業の多くはヨーロッパ本社をアイルランドに置いているが、その最大の理由は法人税率である。
そしてアジアでは、世界標準の25%よりもさらに下がっている。香港は16.5%、台湾とシンガポールは17%だ。韓国は24%だが、輸出に貢献している大企業の場合は優遇措置があり、実質的な税率は15%ぐらいになっている。だからサムスン電子や現代自動車などは日本企業に比べると手元に残るキャッシュがはるかに多くなり、思い切った投資ができるのだ。
政府は2011年の税制改正に法人実効税率の5%引き下げを盛り込んだが、その程度では日本企業が海外に流出するのは避けられないし、日本に来る外国企業が増えることもないだろう。また東日本大震災の復興費用が不足したとして、この5%減税を5年から10年先送りしようと言う議論も出ている。
法人税以外の2011年度税制改正の内容も以下のような小手先のマイナーな修正だけである。
●所得税は給与収入が1500万円を超える場合の給与所得控除に245万円の上限を設ける
●役員については給与収入2000万円超から徐々に245万円の控除額を減らし、給与収入4000万円超は125万円を上限とする
●23歳以上70歳未満の者に対する成年扶養控除の対象を、給与収入568万円以下の納税者を除き、65歳以上70歳未満や心身障害者等に限定する
●相続税の基礎控除を「3000万円+600万円×法定相続人数」に縮小し、最高税率を50%から55%に引き上げる
税制の議論はいつも「増・減税一体改革」などと称して減税をする変わりに別な財源を探してくる、という極めて効果が薄い作業を毎年繰り返してきた。
要するに日本のサラリーマンと企業は、フローに課税する所得税や法人税によって世界
でも指折りに苛烈な「タックス・ヘル(税金地獄)」に閉じ込められているのだ。
※『サラリーマンのための安心税金読本』(小学館)より