60歳の定年から、年金受給が始まる65歳までの5年間を「収入の空白期間」、または「空白の5年間」などと呼ぶ。この5年間に対する不安は大きく、年金受給開始時期を繰り下げることで得をするケースもあるが、空白期間の不安を解消するべく、年金受給開始時期を繰り上げるケースもある。「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏はこう解説する。
「支給開始65歳引き上げに伴う高齢者雇用安定法の改正で、定年後に再雇用する企業は少しずつですが増えています。再雇用や再就職の目処があれば、65歳まで働いて繰り下げを選択するべきです」
さらに、「定年後は65歳以降の年金額を増やすいい機会」と北村氏は指摘する。
「まずは、サラリーマンの年金の1階部分にあたる基礎年金(国民年金)の加入期間を見直してください。大学卒業後に22~23歳で就職した人は、学生時代の2~3年間、国民年金を払っていないケースが多い。
その場合、加入期間が減って満額(年額78万8900円)を受け取れません。厚生年金に加入しない60~64歳の人や、夫の退職で第3号被保険者となった専業主婦は国民年金に任意加入できる制度があるので、加入期間を40年に延ばして満額受給を目指しましょう」
保険料は3年間であれば約55万円(2011年度の保険料月額は1万5020円)だが、日本人の平均寿命83歳まで生きた場合、総受給額を100万円以上増やせる。この保険料は全額が社会保険料控除対象となるので、節税効果も得られる。
また、国民年金には「付加年金」という制度がある。毎月400円の保険料を追加で支払えば、「200円×加入月数」を毎年受け取れるのだ。毎月400円を3年間(1万4400円)支払えば、65歳以降は毎年7200円を生涯受け取れる。わずか2年で支払い分の元が取れ、その後も孫へのお年玉くらいは十分に賄える。
任意加入も付加年金も、居住地の自治体窓口で手続きできる。ただし、いずれの制度も繰り上げ受給を選択して、年金を受け取っている場合は利用できない。これも繰り上げ受給のデメリットといえるだろう。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号