2012年、日本政治の大きな争点の一つがアメリカが主導するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加問題だ。実利を求めて参加するのか、同盟のために参加するのか、民主党政権の腰は定まらない。政治ジャーナリスト・渡辺乾介氏(『小沢一郎 嫌われる伝説』著者)が小沢一郎・元民主党代表に民主党外交について聞いた。
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――憲法の前文には、「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という一節がある。しかし、TPP論者の主張は、欧米依存症ないしはアメリカ恐怖症の人たちが煽っている印象だ。対米、対中の狭間でどちらつかずで揺れたまま。結局、両方に相手にされなくなる。
小沢:アメリカだってもうイライラして、日本なんか相手にしていない。だから、例えばTPPでも「野田首相はオバマ大統領にこういった」とアメリカが発表したでしょう。すると、日本政府は「そんなこといっていない」なんていう(※)。
この日本の二枚舌が、アメリカ政府にしてみれば「何だあの野郎、ふざけるな」となり、日本国内でも一体どっちなんだという混乱、不信を招いてしまう。今までずっとそういう手法でやってきたんだけれど、そういう二枚舌、中途半端が一番いけない。
――特に民主党政権で目立つのは、国際公約を乱発する手法です。国際交渉の経験がない人ほど外圧を怖がって、その場しのぎの発言をしている。
小沢:TPPや消費税増税の話ですね。普天間の問題だって、もう15~20年ぐらいになるでしょう。その間、日本は問題を解決する方法を何も提示していない。だから、アメリカだって頭に来るに決まっていますよ。
海兵隊は撤退してくれ、沖縄のきれいな海は埋められませんというのは当然です。そのかわり、撤退することで生じる(日米安保の)空白はどうするのかを議論しなきゃ解決できない。日本ができることはやりますといわなければならない。
沖縄は日本の領土じゃないですか。極東の安全と対中脅威論からいえば、琉球列島は非常に重要な海洋線になる。そこは日本がちゃんと守りますといえばいい。それから、有事や非常時の情報収集やアメリカ軍との連携に必要な設備の設置とか、日米両国の世界戦略的な話をすれば、アメリカだって納得する。
それを全然何もいわないで、何もかもアメリカにおんぶに抱っこしようとする。嫌なことは何もしたくないというのではだめですよ。
※昨年11月の日米首脳会談後、米政府は「野田首相がTPPについて『すべての物品およびサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる』と述べた」と発表した。これが日本国内で批判されると、日本政府は発言内容を「事実無根」と否定したが、米大統領副報道官は「米国の声明は正しい」と訂正する考えはないことを明言した。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号