週刊誌やマネー誌では「繰り上げor繰り下げ」論争が喧しく取り上げられている。そうした風潮に、「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏は警鐘を鳴らす。
「“得か損か”は、加入者一人ひとりのライフスタイルや資産、あるいは家族構成などによって違ってきます。単純な二元論で判断すると、後になって“逆にしたほうが良かった”と悔やむことになりかねません。自らの老後の生活設計を勘案しつつ、繰り上げか繰り下げかを選んでいくべきです」(北村氏)
「繰り上げ」と「繰り下げ」の仕組みはこうだ。
1994年と2000年の制度改正によって老齢年金の受給開始年齢は60歳から原則65歳に引き上げられた。現在、段階的に移行中だが、受給者は最大60歳まで受給開始を早める「繰り上げ」と、最大70歳まで遅くする「繰り下げ」を選択できる。
繰り上げは定年退職の60歳から受給開始の65歳までの「空白の5年間」に定期収入を得る手段として有効だが、ひと月あたりの受給額は減る。また、一度繰り上げると変更はできず、一部の障害年金を受給できなくなるデメリットがある。
繰り下げは受給開始が遅くなる代わりに、ひと月あたりの受給額は増額される。なお、65歳までに障害年金や遺族年金を受給した場合は繰り下げできない。
繰り上げ時の年金額は「繰り上げた月数×0.5%」の割合で減額され、逆に繰り下げると「繰り下げた月数×0.7%」で増額される。
サラリーマンの基礎年金(国民年金)部分の受給額を例に取ると、標準の65歳受給開始なら年額で78万8900円(40年加入)。これを60歳に繰り上げると、30%減(60か月×0.5%)の55万2200円。この場合は77歳より長生きすると総受給額は標準より損になる。逆に、最大70歳まで繰り下げると42%増(60か月×0.7%)で112万200円。82歳より長生きすれば標準より得をする。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号