タバコが大幅に値上げされた2010年秋に、喫煙者の半数以上が禁煙に挑戦。成功した人は4割以下。失敗した人の6割が「自分の意志のみ」で禁煙しようとしていた(ファイザー調べ)――。自力禁煙の難しさを物語る数字である。
「ニコチン依存症はれっきとした薬物中毒。自力で治すのは非常に難しいのです」と話すのは、禁煙外来を始めて8年の『グッドスリープ・クリニック』(東京港区)院長の白濱龍太郎氏だ。
禁煙外来とは禁煙したい人のための病院。2006年より「ニコチン依存症」という病名で、それまで全額自己負担だった禁煙補助薬に保険が適用されている。タバコ増税を機に受診者は増加中だ。
治療は12週間のプログラムで、5回の診察を受け、薬を処方してもらう。
「初回の診察で禁煙の動機を確認し、禁煙宣言書に自筆でサインしてもらいます。医師と看護師も『禁煙をサポートします』とサインします。本気度を確認することで禁煙の決意が固まるので、ウチはけっこうしつこく確認します」(白濱氏・以下「 」内同)
処方される主な禁煙補助薬は『チャンピックス』というニコチンを含まない経口薬だ。2008年から日本でも処方され、この薬によって禁煙成功率が大きく伸びているという。
「ニコチンガムやニコチンパッチはドラッグストアで買えるので、禁煙したい人は一度は試しているでしょう。それらとまったく違う根本的な治療法です」
人間の脳には、ニコチンを感知するとドーパミンという満足感をもたらす神経物質を放出する「ニコチン受容体」がある。ニコチン依存症を生む張本人だ。従来のニコチンガムとパッチは、タバコの代わりに脳内にニコチンを送り込む「ニコチン代替療法」で、ニコチン受容体そのものは健全であり続ける。対して『チャンピックス』はニコチンを含んでいないが、ニコチン受容体と結合して、タバコのニコチンが結合するのを阻止するのだという。
「ニコチン受容体がニコチン自体を欲しなくなるので、ニコチン依存症から脱しやすい。これがガムやパッチとの大きな違いです。また『チャンピックス』の結合によってもドーパミンが少量放出されるので、禁煙後の辛い禁断症状を軽減することができます。禁煙を続ける上で重要な効能です」
禁煙失敗のよくあるケースが「酒の席での貰いタバコ」「仕事のストレスが溜まってつい1本」である。
「そういう人には『体はもうニコチンを欲していないから大丈夫。まだ間に合いますよ』と説明し、励まします。1本吸ってもやり直しやすいのも、『チャンピックス』の特徴ですね」
いくら薬を飲んでいても、吸いたくてたまらなくなる場面はある。そんな時はどうすればいいのか。
「私も何とか禁煙に成功してほしいと思うので、ご本人といっしょに考え、ケースバイケースの対処法をアドバイスしています。禁煙外来はカウンセリングの要素も大きいかもしれません」
また、禁煙外来の診察では毎回、呼気中の一酸化炭素を測定する。禁煙すると目に見えて数値が下がっていくので、モチベーションも上がるという。
グッドスリープ・クリニックでは12週間後に約8割が、めでたく「卒煙」していくという。本気で禁煙したい人は、禁煙外来を訪れるのが近道かもしれない。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号