米軍の普天間基地移設問題が迷走を続けている。「沖縄はゆすりの名人」などと発言したと一部で報じられ、米国務省日本部長を解任されたケビン・メア氏は「あれは事実ではない」と報道を否定した上で、「普天間基地問題で日米関係が揺らげば、中国につけ入る隙を与える。野田総理はリーダーシップを発揮して早期に問題を解決すべきだ」と説く。メア氏が問題の核心を衝く。
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沖縄に駐屯している第三海兵遠征軍は、米本国以外で展開している唯一の海兵隊である。海兵隊は航空部隊(ヘリ部隊)と陸上部隊、支援部隊が一緒に展開する統合部隊で、有事の際にはもっとも迅速に動く。その機動力は東日本大震災の救援活動「トモダチ作戦」でも十二分に発揮された。
扇の要である沖縄にこの海兵隊が駐屯していることが、日本防衛とアジア・太平洋地域の安定化をはかる重要な重しになっているのである。
それゆえ現実に選択肢として存在するのは「辺野古への移設」か「普天間の固定化」の2つしかない。同じ沖縄本島の米空軍嘉手納基地に移すという「嘉手納統合案」は、日米政府間協議で廃案になっている。仮に「普天間の固定化」でも、アメリカとしては“現状維持”なので軍事戦略上の齟齬は生じないが、私自身は騒音問題などを鑑みて、やはり辺野古への移設が最善策だと考えている。
しかし、現実にはアメリカ側がしびれを切らし始めている。12月、米議会の上下両院は、海兵隊の一部(8000人)をグアムに移転する計画について、12年度の予算1億5000万ドルを認めないことで合意した。海兵隊の一部移転は辺野古への基地移設が前提であり、先行きが不透明である以上、予算は認められないとの立場を示した。
このまま具体的な進展がなければ、田中前局長が言った通り、いよいよアメリカは「普天間の固定化」を決断すると私は予測している。それも“遅くとも2012年夏まで”である。時間的な猶予はほとんど残されていない。
今の日本は、原発の再稼働問題も同根だが、「地元の意思」を尊重するあまり「過剰なまでのコンセンサス社会」になりつつある。しかし、国家のエネルギー政策や安全保障政策について、地方自治体の首長に決定を委ねるのはどう考えてもおかしい。民意をはかるといいながら、その実、政治家は責任を取りたくないだけなのだ。
どんな結果になろうとも、重要なのは、中国に対して「日米同盟がグラついている」という誤ったメッセージを伝えないことである。
相手が一線を踏み越える誘惑にかられないような軍事力を整備するのが国防の大原則であり、仮に「普天間の固定化」で終わったとしても、日米両国がそれに納得し、禍根を残さなければ、日米同盟は盤石であることを示すことができ、中国に隙を見せることはない。現実に軍事戦略の面でも、従来と何ら変わりはないのである。
しかし、この問題をグズグズと引きずり続けて、日米間の関係が揺らぐようであれば、中国につけ入る隙を与えることになる。私が心配しているのはその一点である。
「過剰なまでのコンセンサス社会」は、危機の時代にその恐るべき弱点をさらけ出す。危機を解決できないばかりか、危機を増幅させ、国家を存亡の危機に追いつめることさえもあるのだ。
この問題に決着をつけられるかどうかが12年、ひいては将来の日米関係を占う上で大きな意味を持つことは言うまでもない。意外にも野田総理は今までの民主党の総理と異なり、決断ができる人のようである。辺野古への基地移設はできるかどうかではなく、日本政府に本当に実行に移す意思があるかどうかである。移設計画を実行するか、普天間を固定化するか、どちらかを決断する時期である。
野田総理には、国益のために必要であれば地元の反対を押し切っても決断する、強いリーダーシップを期待したい。
※2012年1月18日号