東日本大震災の発生で注目を集めている地震保険。しかしながら、損害の認定基準は『全損』『半損』『一部損』の3段階しかなく、査定人の主観で判断される部分も大きいといわれている。東日本大震災では、こうした査定にかかわる“泣き笑い”が無数に起きた。以下は実例の一部だ。
■「自宅はほとんど無傷だが、窓ガラスが割れ、住める状況ではない。塀も倒壊した」(岩手県・60代男性)
査定結果は「損壊なし。保険金は0円」だった。玄関扉や窓ガラスは主要構造部ではないので保険の対象にはならない。同様に塀の倒壊も対象外だ。
■「湾岸エリアの一戸建て在住。地盤が液状化して、自宅も少し傾いた」(東京都・30代男性)
こちらは「一部損。5%支払い」という扱いになったのだが、液状化現象については、液状化特有の損害に着目した損害認定方式がある。
【全損】傾斜1度超。沈下30cm超。
【半損】傾斜0.5~1度。沈下15~30cm。
【一部損】傾斜0.2~0.5度。沈下10~15cm。
「傾斜・沈下量はいずれも最大値が採用されます。建物傾斜が1度あると、生理的な限界を超えるとされています」(地震保険に精通する不動産コンサルティング『さくら事務所』の三上隆太郎氏)
■「家具などに被害はなかったが、家にあった100点近い皿や食器が全部割れた」(宮城県・40代女性)
このケースでは「一部損。5%支払い」と査定された。
家財の地震保険は個々の損傷状況では判断されないのだ。地震保険において家財は、【1】食器陶器類、【2】電気機器類、【3】家具類、【4】身の回り品その他、【5】衣装寝具類の5つに分類されている。
それぞれには査定対象となる代表的な品目が定められており(例えば【1】は食器や調理器具など5項目、【2】はテレビや冷蔵庫など8項目)、そのうち何品目に損傷が生じたかを査定人が調査。5分野の割合を合算して損害の認定を行なう。10~30%で一部損、30~80%で半損、80%以上で全損となる。
つまり、皿が1枚割れても100枚割れても、損害割合は変わらない。『食器陶器類』の『食器』にチェックが入るだけだ。
「5分類にまんべんなく損害が生じると、認定が高くなります」(三上氏)
■「マイカーが津波で流された」(岩手県・60代女性)
こちらは「保険料は0円」。東日本大震災で最も多かったトラブルが、車に関する事例だ。自動車は家財とみなされず、悲しいことに、車両保険も地震による損害は補償してくれない。
「車両保険に入っていれば、地震による損害でも補償されると思っていた人は非常に多かったのですが、地震特約を付けていなければ、保険金は支払われません。しかも特約も上限が低く(最大50万円程度)、フルカバーは難しい」(火災・地震保険コンサルティング会社「ノバリ」のファイナンシャルプランナー・山崎努氏)
車両保険の地震特約は、保険会社が積極的に販売してこなかったという。
「大津波が発生すると、保険会社が大損になる。車が流されていく映像を見て、“勧めなくてよかった”と胸をなで下ろしていた損保幹部は多いはず」(大手損保会社関係者)
※週刊ポスト2012年1月13・20日号