アメリカの人事コンサルティング会社・マーサーが、毎年、世界200都市以上を対象にランク付けして「生活の質」が高い都市を発表している。最新のベスト5は、1位ウィーン(オーストリア)、2位チューリッヒ(スイス)、3位オークランド(ニュージーランド)、4位ミュンヘン(ドイツ)、5位デュッセルドルフ(同)で、日本は東京が46位、横浜と神戸が49位。上位にランクされたオーストリア、スイス、ドイツの各都市には共通点がある、と大前研一氏が解説する。
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それはまず、歴史・伝統・文化があって安定していることだ。言い換えれば、都市の価値の破壊につながる新しいことは何もしない。古いものを堅固に守ることで価値を維持している。
たとえばチューリッヒは、山に囲まれたチューリッヒ湖の周りに街があるが、湖の対岸から見た美しい景観を守るため、高層ビルを建てさせない。建物の容積を増やす時は、地下を深くして地上部分は3階ぐらいまでに規制している。FIFA(国際サッカー連盟)の本部でさえ3階建てである。対岸からの景色を損なうと街の価値が下がってしまうから、建物の高さを徹底的に制限しているのだ。
もう一つの共通点は、コミュニティーが非常にしっかりしていることだ。とくにミュンヘンはコミュニティーの強さが半端ではない。私のマッキンゼー時代のドイツ人ディレクターのほとんどがここに住んでいるが、住宅街では自宅の庭木1本さえ自由に切ることができない。町内会が年に何回かヘリコプターで航空写真を撮影し、前にあった庭木がなくなっていると、“住民裁判”にかけられ、罰金を取られてしまうのだ。
なぜなら、個人の住宅の庭木も街の景観の一部であり、コミュニティーの価値や隣人の住宅の価値に影響するからだ。したがって、自分の敷地内であっても隣家や道路から見える場所にゴミを置いたり、荷物を積み上げたりするのはもってのほかで、すぐに住民から町内会に通報され、町を追い出されかねない。
それほど住民の相互監視の目が厳しく、コミュニティーの圧力が強いのである。場合によっては窮屈かもしれないが、それが安全・安心や清潔さ、街の景観といった価値=生活の質の高さ、ひいては資産価値につながっているのである。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号