中国人が北京オリンピック以降忘れていた深刻な社会問題が、ふたたびクローズアップされつつある。大気が汚染物質によって霧のように覆われ、北京の視界が50メートルにまで下がってしまう事態まで発生したのだ。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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「えっ、霧だって? そんなわけないでしょう。どう見たって空気汚染が原因でしょう。みな、あまりに異常で怯えているよ」
昨年末、北京をはじめ河北地方一帯に広がった“大霧”(広範囲を覆った霧を指す)は、北京オリンピック以降忘れていた空気汚染の問題を改めて中国の人々に思い出させるきっかけとなった。
CCTVのニュースで真っ白になった北京の映像を見た直後に国際電話をかけると、北京に住む友人は冒頭のように語ったのだ。
中国のメディアが“霧”とした空気の正体は、その後の報道によればPM2・5と呼ばれる空気中の微粒子で、汚染物質であることが明かされた。
汚染された空気に包まれた北京は視界が遮られ、平均で500メートル、最も酷いときには50メートルにまで下がり、航空機の離発着に支障きたし実際に800余便が欠航となったのである。
北京市朝陽区にあるアメリカ大使館は、このPM2・5の空気中の濃度が一立方メートル当り522マイクログラムとなり、基準とされた500マイクログラムを超えたと警告したのである。
こうした事態を受けて北京市の環境保護局副局長も「中程度の重汚染」であることを認め、「肺や心臓に不安にある人々はもちろん、健康体の人も屋外での活動を控えるよう」中国版ツイッターで呼びかけたのである。
実際、北京市内の小児科病院には体調不良を訴える子供たちで長蛇の列ができパニック状態に陥ってしまったのだ。
この体験で北京の人々は、2008年のオリンピックによって好転したはずの環境汚染が、実は何も変わっていなかったことを改めて実感することになった。
考えてみればあの時期に多少解消された北京の渋滞も、いまやパワーアップして戻ってきているのだから当然のことなのだろう。
それにしても空気汚染の告知に中国版ツイッターとは、まさに中国の今の世相を反映した変化だ。昨年、中国版新幹線事故でも民意を代弁したのもメディアではなく中国版ツイッターだったことは記憶に新しい。昨年末に発表された「今年の漢字」も中国版ツイッターである「微博」からとった「微」であった。
この中国版ツイッターの影響が大きすぎるため、当局は昨年末に完全実名制への移行に踏み切ったほどである。