「源泉かけ流し」の温泉旅館が、当の環境省の規制によって経営を脅かされている重大問題があることをご存じだろうか。「水質汚濁防止法」に基づく「暫定排水基準」の更新(3年ごと)がそれである。安倍晋三内閣、福田康夫内閣で渡辺喜美・行革大臣の補佐官を務めた、政策工房社長・原英史氏が解説する。
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この規制には納得のいかない点がいくつもある。まず、水質汚濁防止法では、「温泉旅館」は規制対象だが、「日帰り」の入浴施設や足湯などの多くは対象にならない。
同法施行令が規制対象を、〈旅館業の用に供する……ちゅう房施設、洗濯施設、入浴施設〉(別表第一、66の2)などと規定しているためだ。同じ源泉でも旅館からの排水だとNGで、日帰りだとOK、とはなんとも不可思議。
それだけではない。自然の温泉には、そのまま川に流れているケースがいくらでもある。例えば湯量が豊富なことで知られる草津温泉では、噴出する源泉の半分は利用されずに川に流れ込んでいる。その分を環境省が独自に浄化装置をつけているかというと、何もしないで放置しているのだ。なぜ旅館を経由して排水されるお湯だけを規制するのか? こうした疑問を環境省(水・大気環境局水環境課)に質してみた。
温泉の水質が規制対象ならば、旅館か、日帰りかは関係ないのではないか。
「規模が大きい厨房施設を持つものであれば、日帰りの入浴施設も規制対象になる。ただし、日帰り施設のすべてが規制対象になっているわけではないことは、今後の検討課題かと考えている」
昔から、温泉水は源泉から川に自然に流れ込んでいる。有害ならなぜ放置するのか。
「自然湧水から川に流れるものが対象外なのはその通り。ただ、旅館業が水濁法の対象になったのは、厨房や洗い場、洗濯など、多量の生活排水が、周辺の景勝地、自然公園の水質汚濁に関係があるのではないかという観点もある」
ならば温泉施設の生活排水を規制すればいいだけでは。
「温泉水の中に有害物質を含んでいることもある。両面からの規制が必要」
こうなるともっと根本的な疑問がある。温泉旅館に泊まる人たちは、「本来ならば川に流してはいけないほど有害」なお湯につかっていることになるが、副大臣は「体にいろんな良い効果が表われる」と温泉を奨励しているではないか。再び環境省の答え。
温泉水が有害なら入浴客に影響はないのか。
「水濁法は排水についての規制で、人が入る温泉が安全かは、水濁法の範囲外です。うちからはお答えできません」
役所の論理は相変わらずぐるぐる回りで説得力がない。
※SAPIO2012年1月18日号