1月12日に発売される『あんぽん 孫正義伝』(小学館刊)。著者の佐野眞一氏は、同書のなかで、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏と孫氏の関係についても言及している。以下、同書からの抜粋だ。(文中敬称略)
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孫は自分より二歳年上のスティーブ・ジョブズの死を飛行機の中で知った。孫はそのときの驚きと悲しみを次のように語っている。
「本当に涙があふれてしかたなかった。彼の姿勢を見ていると、仕事のためとかお金のためとか、そういうにおいはいささかも感じさせなかった。スティーブからは事業の成功というより、一回限りの人生で何をなしたか、何をなそうとして精一杯生きたかということの方がはるかに大切だということを学んだ」
孫がジョブズとじっくり話すようになったのは、ジョブズが一度アップルを追われ、再びアップルに戻ってこようというときだった。
孫はそのときのジョブズの印象を「まだ心の傷は癒えていない状態で、目はらんらんと燃えていたが、心は満身創痍みたいな感じだった」と回想している。
「心は満身創痍」。この表現は同じITの第一世代として戦い抜いてきた“戦友”でなければ言えない台詞である。
こんな思い出も語っている。
「以前から親しくしている米オラクル創業者のラリー・エリソンさんから、こんな話を聞いた。
アップルが倒産しそうだ。自分は社外役員になったけど、アップルを復活させる方法はたった一つしかない。あの天才を呼び戻すことだ。そう役員会で机を叩いたんだ。
そのとき、ラリー・エリソンの自宅で、スティーブと三人で満開の桜を見ながら話し込んだ。それ以来、スティーブと急速に親しくなり、お互いの自宅を行き来するようになった。
初めてiPhoneを手にしたときは鳥肌が立ちました。それまで携帯電話に本物のOSが入ったことはなく、ユーザーインターフェースも革新的でした。スティーブはiPhone開発後に『とにかくすごいぞ。パンツにおもらしするぞ。他社は少なくとも五年追いつけない』と断言していました。その言葉どおりでした。たった一機種の端末が世界の携帯電話メーカーを震撼させたのです」
(『あんぽん 孫正義伝』より抜粋)