誰もが驚いた、吉本興業社長の「紳助復帰」発言。芸能界と暴力団の関係を追っている捜査関係者も、「紳助の暴力団との絶縁が確認されていない段階で復帰を語るとは、コンプライアンス意識の欠如としか言いようがない」と語っているという。さて、警察はどう出るか。危機管理専門家であるリスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏が解説する。
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年明けの1月5日、暴力団の犯罪被害者や警察関係者の、おとそ気分を吹き飛ばすような出来事が報道された。吉本興業の創業100周年プロジェクト発表会見(1月4日)で、同社の大崎洋社長の口から驚くべき言葉が発せられたのだ。
「私たちは彼(島田紳助)の才能を惜しむものであります。皆様のご理解を得て、いつの日か吉本興業に戻って来てもらえるものだと信じています。これは、社員、タレント、芸人、全員の思いです」と。
しかも、質疑応答などではなく、自ら切り出したという。(1/5サンケイスポーツ)
これをテレビ報道で知った私は、心から残念に思った。明石家さんまを始めとする多くの有名タレントを擁し、一時は東証一部に上場していた企業の危機管理とは思えなかったからである。私は一瞬「これは島田紳助の復帰の芽を摘むための裏技かな」、と深読みしてしまったくらいだ。それほどまでに、常軌を逸した発言と感じたのである。
この発言には多くの企業の宣伝部や広報部も、驚くと同時に冷汗をかいたに違いない。昨年の10月に全国で暴力団排除条例が出揃って、企業は本当に苦心して暴力団や暴力団の密接交際者との関係を絶っている。特に、警察が目をつけている事業者には、細心の注意を払って距離を置こうとしてきた。
その事業者が暴力団排除条例で摘発されれば、自社も巻き添えになる恐れがあるからだ。従って、吉本興業が目をつけられれば、そこに所属するタレントや芸人が出演する番組やイベントのスポンサーになることも、熟慮しなければならなくなってしまう。企業のコンプライアンス活動のPRも担う宣伝部や広報部だけに、神経質にならざるを得ないからである。
スポンサーが少なくなってしまえば、番組やイベントは予算を削られて、迫力も面白みも欠けてしまうだろう。それは視聴者にとって大きな損失となる。そんな悪循環を、吉本興業の大崎洋社長は予測できていたのだろうか。
そこで警察が、どんな挙に出てくるのかを予測してみよう。
おそらく「このままでは島田紳助が復帰をしてしまう。そうなれば、芸能界と暴力団との関係は元に戻ってしまい、条例の効力も低下してしまう」と感じ、何とか阻止したいと考えるだろう。
そのためには、島田紳助や吉本興業に関する暴力団との関係を、鵜の目鷹の目で探して摘発もしくは情報開示をするしかない。まさに、警察に目をつけられる状態になりかねないのだ。
実際、私が親しくしている捜査関係者も、「紳助の暴力団との絶縁が確認されていない段階で復帰を語るとは、コンプライアンス意識の欠如としか言いようがない。会見で視聴者に嘘をついた謝罪もしていないではないか」と語っていた。
吉本興業の企業理念には『我が社の社会への責任は、人々や自分自身が笑顔や笑い声を、いつも持てるようにすることである』とある。ならば、暴力団による犯罪の被害者の顔が引きつるような言動をしてはならない。
また、吉本興業の企業行動憲章には『私たちの提供するエンタテインメントやタレントの言動が社会に与える影響力の大きさを自覚し、自ら、社会の構成員として求められる価値観・倫理感に従った品位と節度のある行動を堅持するとともに、タレントにおいても、社会規範に沿った倫理的行動が堅持されるよう努めます』という一節がある。
ならば、真っ先に大崎洋社長自身が、自らの発言の影響力の大きさを自覚し、倫理感に従った品位と節度のある行動を堅持しなければならない。