いまや全国の中高生ランナーの憧れともなった箱根駅伝。この大会は選手に何をもたらすのか。日大4年生時に選手として箱根に出場し、1967~1999年まで大東文化大学監督を務めた青葉昌幸・関東学生陸上競技連盟会長がいう。
「箱根駅伝は長い練習期間を通じて人間づくりのできる魅力ある大会です。選手は厳しい練習を1年通すことで人間力を磨く。駅伝は“人柄が走る”競技なんです」
青葉さんは監督時代、選手と同じ合宿所に住み込んで寝食を共にし、早朝5時半からの練習に必ず顔を出した。長い監督時代を通じて知ったのは、仲間の大切さだ。大東大は大会に出られない部員が夜中の合宿部屋を周回し、選手が体を冷やしていないか確認した。
大会本番では、出場する選手のシューズを付き添いの部員がカイロで温めた。
「極論すれば、出場する10人の出場選手より彼らをサポートする付き添いメンバーのほうが大事です。そういうメンバーのいる大学は強くなる。仲間を信じ、仲間のために走ることが駅伝なんです」(青葉さん)
山の神・柏原竜二(東洋大)は、2011年大会往路優勝後のインタビューで「やったぞ、田中!」と涙で叫んだ。ケガで苦しんでいたとき、励ましてくれたチームメートの名前だった。
新年の箱根を疾走する選手たちは、部員以外にもたくさんの人に支えられている。
関東学生陸上競技連盟には学生たちが集い、大会を後方からサポートする。たとえば、復路の翌日から2日間かけて、出場校の学生らは選手と同じコースをゴミ拾いしながら歩くのだ。
レース中、沿道には多くの人が駆けつけ、声を振り絞って応援する。お茶の間からも熱い視線が向けられる。
そうした声や思いがすべて1本のたすきに込められていることをみんなが知っている。さらに2011年の東日本大震災を経て、たすきをつなぐことの意味はこれまで以上に深くなった。
汗を含んだたすきの重みを感じ、沿道からの声援を耳にし、テレビを通じて故郷から応援する人達の視線を感じるとき、長距離ランナーは孤独ではない。
※女性セブン2012年1月19・26日号