厚生年金の受給開始年齢引き上げ案が政府で検討されるなか、公的年金という制度自体に不安を持つ人も多いだろうが、そんな人にあらためて知って欲しいのが、日本版401kといわれる「確定拠出年金」だ。老後の備えとして“信頼できる唯一の年金”といわれるその理由を、ファイナンシャルプランナーの森田悦子氏が解説する。
* * *
国の年金財政を支えるため、年金受給開始年齢の引き上げなどが検討されているが、そもそも老後の生活を公的年金だけに頼るのはリスクが高い。ゆとりある老後を送るためにも、現役時代から無理のない範囲で積み立てていくのが理想だ。
そうなると、多くの人は預貯金や投資信託の積立、民間の年金保険などを思い浮かべるが、それよりもまず検討したいのは「確定拠出年金」(日本版401k)だ。2001年にスタートした新しい年金で、老後の資産形成を目指す若い世代にも有利な制度だ。2011年8月に成立した年金確保支援法では、加入資格年齢の上限が60歳から65歳までに引き上げられる(企業型)など、制度が拡充されている。
確定拠出年金には個人型と企業型があり、個人型は掛金を自分で納めるが、企業型は原則勤務先が負担してくれる。「年金」と聞くと、納めたお金がどこでどうなっているかわからないうえ、返ってくるかどうかも疑わしく思う人もいるだろうが、確定拠出年金は納めたお金を加入者自身が確認しながら運用できるので安心だ。しかも、万が一受け取る前に死亡しても遺族が代わりに受け取れるので「納め損」にはならない。金融機関で積立している感覚に近いだろう。
そうであれば、通常の預貯金や投資信託などに積み立てればいいと思うだろうが、通常の金融商品にはない独自のメリットが確定拠出年金にはある。なかでも最大のメリットは、税金の軽減効果だ。
確定拠出年金には3つの税制優遇が用意されている。第一に、自分で掛金を払う個人型では納めたお金に所得控除が受けられる。納めた掛金は所得税や住民税の計算の元になる所得から除かれるため、税額を少なくできるのだ。
たとえば個人型に加入する年収680万円のサラリーマンの場合、毎月2万3000円ずつ積み立てると、所得税と住民税が合計で年額8万2800円が軽減される。税金の軽減効果は収入が高いほど大きく、年収1200万円の自営業者が月額6万8000円を運用に回せば35万880円も節税できる。年額81万6000円を運用すると、35万円の税負担が浮く計算だ。預貯金や投資信託などに積立をしている人なら、同じ額を積み立てても、手元に残るお金が増えることになる。
企業型の場合、これまで掛金は企業だけが拠出していたので加入者個人の税額とは無関係だったが、年金確保支援法の成立により上限の範囲内かつ企業の拠出を上回らない範囲で加入者個人の追加拠出が認められた(マッチング拠出)。2012年からは個人で納めた掛金にこうした税制優遇を受けられるようになる。企業型に加入する人は、勤務先にマッチング拠出導入の予定があるかを確認してみよう。
第2の税制優遇は、運用益に税金がかからないことだ。通常、預貯金の利子や投資信託の配当金にはその都度税金がかかる。しかし確定拠出年金なら運用中は非課税で、全額再投資されるため、複利効果が大きくなる。
第3の優遇は、受け取り時だ。通常の運用なら、投資信託を解約・売却した際に利益が出ていれば課税される。一方、確定拠出年金を一時金で受け取る場合には「退職所得控除」という、退職金向けの有利な税制が適用される。たとえば30年間加入した人なら1500万円までは課税されずに全額を受け取ることができるのだ。年金として分割で受け取る場合でも、「公的年金等控除」が適用されるので一般の金融商品よりも有利だろう。
※マネーポスト2012年新春号