【書評】『ラーメンと愛国』/速見健朗著/講談社現代新書/798円(税込)
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イマドキのラーメン店は、「麺屋」「麺家」などと名乗り、店員は作務衣あるいは黒や紺のTシャツを着ている。著者言うところのこうした“作務衣系”の店のメニューは相田みつを風のヘタウマ文字で書かれ、ことによると店主の人生訓などが載っていたりもする。味にも職人的なこだわりを持ち、若い店員には徒弟制度的な修業が課されている。明治時代中期に「南京そば」として日本に入ってきたラーメンは、時代を経て中国的な意匠を全く失い、今やかくも日本的な意匠に塗り替えられている。
こうした現象を見て著者は、〈復活した近代以前の風習であるのれん分け制度等々といった、日本社会が一旦は捨てたはずのさまざまな伝統や制度が、再びラーメンの世界に浮上してきている〉と書き、そこに1990年代以降のナショナリズム(あるいは、精神科医・香山リカの言う「ぷちナショナリズム」)や愛国心の高揚、さらには社会の右傾化を読み取る。
本書は、「国民食」として定着するに至るラーメンの変遷を通して日本の現代史を読み解こうというユニークな論考だ。
戦後、ラーメンが普及していった背景には、余剰小麦の長期的な輸出先として日本を選んだというアメリカの戦略があったこと。安藤百福が生んだチキンラーメンは、アメリカにおけるT型フォード同様、大量生産の工業品の象徴であったこと。田中角栄の「日本列島改造論」によって「地方の時代」が始まり、札幌ラーメンなどの「ご当地ラーメン」が数多く誕生していったこと……。こうした興味深い話が次々と展開される。
著者の解釈全てに賛同するかどうかはともかく、知的刺激に溢れた本である。
※SAPIO2012年1月18日号