大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回は「吉本社長の『紳助復帰』発言に学ぶ大人のゴリ押し力」です。
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それにしても、予想以上の早さでした。島田紳助さんが、暴力団との関係を問題視されて突然の引退を発表したのは、去年8月23日のこと。それからわずか5か月弱の今年1月4日、吉本興業の大崎洋社長が、イベントの発表記者会見で、紳助さんについて、「いつの日か吉本興業のもとに戻ってきてもらえるものだと信じております。これは私たち全社員、全タレントの思いでもあります」と発言しました。
あのとき、今思えば妙にあっさり引退させていましたが、最初から「ま、ほとぼりが冷めたら復帰させればいいし」と思っていたのかと勘ぐってしまいます。社長がそういう気でいるとわかったら、社員としては尻馬に乗っかるしかありません。所属のタレントのみなさんも、いろんな場所で競うように「復帰待望論」を語っています。
そりゃ吉本興業とすれば、超のつくドル箱である紳助さんには復帰してほしいところ。批判は承知の上で、どうにか復帰容認ムードを作ろうとするのも無理はありません。今回の吉本興業のやり方から、身勝手な都合を臆面もなくゴリ押しするコツを学びましょう。
ポイントは3つ。ひとつ目は「いつの日か~と信じている」という曖昧な言い方で、自分の願望を明らかにしつつ、反応を探ろうとしている点。かつて自分を振った女性や、ぜんぜん相手にしてもらえなかった女性に会ったら、とりあえず「いつの日か、ボクの気持ちが届くと信じているよ」と言えば、たまにはまんざらでもない反応をしてもらえるケースもありそうです。ま、あくまで「まんざらでもない反応」止まりでしょうけど。
ふたつ目は、べつに全員に確認したわけでもないのに「これは私たち全社員、全タレントの~」と勝手に大勢の味方をバックにつけている点。社員食堂のメニューから個人的に大好物だった「ハヤシライス」がなくなってしまった……といった場合は、食堂の職員さんや総務部の人に「ハヤシライスの復活は、私だけでの意見ではなく、全社員の思いです」と言ってしまいましょう。少なくとも並々ならぬ熱意は伝わります。
3つ目は、さりげなく外堀を埋めている点。浮気などが原因で奥さんに逃げられたときは、自分が必死で謝るのはもちろん、何人かの友だちに頼んで、奥さんに「ふたりには早く元通りになってほしいなあ」という“復帰待望論”を代わる代わる伝えてもらいます。もしかしたら奥さんは、元通りにならなきゃいけない気になってくれるかも。
いずれも、こうやって書いてみると、けっこう無理がある手法です。この先、吉本興業が、無理な手法をどうもっともらしく発展させていくのか。次はどんな手を打ってくるのか。楽しみに見守らせていただきましょう。不祥事の後始末でも私たちを楽しませてくれるなんて、さすが日本を代表するエンタテインメント企業ですね。