いくら17年の歳月が経ったからといって、出頭してきた平田信容疑者を、警視庁の機動隊員も、丸の内署の警察官も見分けられなかったことは驚きだ。警視庁や警察官はそれを仕事にしているプロのはずなのに、いったいなぜ、同一人物と判断できなかったのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が考察する。
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大晦日に出頭してきた平田信容疑者。警視庁の機動隊員は「手配写真と印象が違う」と感じ、「いたずら」と思い込んで取り合わなかったとか。髪が長く茶色で顔もふっくらしていたので別人だと思い込んだそうです。
その後、丸の内署に移動したら、そこでも警察官に「うそ」と言われ、指紋をとられてやっと身元が確認され逮捕された--。まさしく嘘のような本当の話に、こっちがびっくりさせられました。
いくら17年の歳月が経ったからといって、手配写真の相手を見分けることができないとは驚きです。警視庁や警察官はそれを仕事にしている、プロのはずなのに。素人からすると、「いったいなぜ、同一人物と判断できなかったのか」、理由を知りたくなります。
そういえばしばらく前、「犯人の似顔絵」をめぐって、ある出来事が話題になりました。
誘拐された子どもたちの「視覚」の記憶から作られた「似顔絵」が、犯人逮捕の決定的な手がかりとなったという出来事です。
誘拐された七歳の少女は、犯人の顔を詳細に覚えていた。色白でめがねをかけ、歯が一本欠けていたなど、鮮明なディテイルの記憶をもとに似顔絵が作られ、犯人逮捕となりました。七歳の少年が誘拐された際も、同じく詳細な似顔絵が手がかりとなって容疑者が逮捕されることに。そんな事件が続きました。
いったいなぜ、子どもたちの記憶から作られた似顔絵は正確なのか? 子どもは網膜に映った映像をそのままダイレクトに覚えているという傾向があります。子どもは「場面をそのまま鮮明に記憶する」力が強い。
それに対して、大人は見たものに自分なりの意味や解釈を加えてしまう傾向がある。「外部から『こうだったのでは?』と情報を入れられても、子どもは『違う』とはっきり否定できる。一方、大人は『そう言われればそうだったかも』などと、あやふやになってしまう」という専門家のコメントが新聞に載りました。
あなたが1時間前に会った相手の顔は? 顔の輪郭は角張っていたか。鼻の形は。目の形は。そう尋ねられてもなかなかすらすらとは答えられません。
それよりも、何歳くらいで労働者風とかサラリーマン風とか、都会的だとか野暮だとか、その人の社会的背景などを勝手に解釈し意味づけしてしまう。そうした印象を抱くことによって、ますますリアルな観察力は低下し、部分・パーツの具体的な形体を捉えることが難しくなる、ということでしょう。
大人の視覚は、社会的な意味や価値観に必要以上に引きずられる。「勝手な自己解釈に浸食されて濁っている目」とも言えるかもしれません。それに対して、子どもは「ありのままに見ることができる純粋な目」を持つ、と言えるのではないでしょうか。
平田容疑者の顔には整形された痕跡が無かったそうです。17年前と今で、目の形も鼻の形も顔の輪郭も変化は無い。もし、子どもたちの目が検証していたら? あっという間に同一人物だと判断していた可能性があります。
こうなったら、子供向け職業体験テーマパーク「キッザニア」にいる子ども警官たちに、指名手配者の検挙を手伝ってもらうのはいかがでしょう? プロの警官より、よほど効率的かもしれません。