大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回は大河ドラマにケチをつけた兵庫県知事の問題から、「大人のお世辞力」について学びます。
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そりゃ、個人的な好き嫌いはあるでしょうけど、大人としてあまりにもウカツな発言でした。8日にスタートしたNHK大河ドラマ「平清盛」。その初回の放送を見た兵庫県の井戸敏三知事は、記者会見で「鮮やかさがなく、薄汚れた画面ではチャンネルを回す気にならないというのが第一印象」と極めて率直に批判しました。
さらに「うちのテレビがおかしくなったのかと思うような画面だった」とこき下ろしたり、「公家社会打破のエネルギーや、日本の将来を先取りした人物像を正面に据えていただきたい」と注文をつけたりと言いたい放題。なんせ兵庫県は、清盛ゆかりの地であり、大河ドラマに合わせて観光客誘致のキャンペーンを始めているだけに、つい力が入ってしまったのでしょう。今後の展開次第では、NHKへの改善申し入れも検討しているとか。
きっと県としてもいろいろ協力したりしているんでしょうけど、今回のコメントは明らかに「差し出がましい発言」でした。やっぱりというか当然というか、知事の発言に対して「番組内容に介入するような発言をすべきではなく、立場をわきまえるべきだ」「(大河ドラマ)は兵庫県の観光PRのために制作されているのではない」などなど、たちまち厳しい批判が殺到します。
この先、知事がどう出るのかが興味深いところですが、このチャンスに観光客を増やそうと頑張っていた担当者や関係する業界のみなさんは、さぞや落胆したり憤ったりしていることでしょう。NHK側も、兵庫県に協力する気をなくしたかもしれません。残念ながら知事の発言は、極めて激しく観光客誘致の足を引っ張ってしまいました。
そもそも、ケチをつけたところで今さら大幅な軌道修正なんて不可能です。たとえ少々気に入らなかったとしても「素晴らしかった。今後が楽しみ」などとお世辞を言っておいたほうが、メリットが大きかったのは確実。ついでに「松田聖子さんの妖艶さに萌えました」とでもコメントすれば、ニュースとしての扱いも十分に大きくなったでしょう。
仕事の場面でも、協力会社や外部スタッフについて聞かれたときに、正直に「このへんがちょっとね……」と批判をしてしまうのは、百害あって一利なし。たとえ当事者の耳に入らなくても、目の前の相手に「なんだこいつ」と厳しい評価をされてしまいます。たとえ見え見えでもお世辞を言っておくのが、大人の計算高さであり用心深さに他なりません。
でもまあ、井戸知事の発言のおかげで、お世辞の大切さにあらためて気づくことができました。深く感謝したいと思います。もしかしたら、そこまでお見通しの上でのあえての批判だったのかも。ああ、素敵な知事を持つ兵庫県民のみなさんがうらやましい。……おかしいなあ。一生懸命お世辞を言ってるつもりなのに、お世辞に見えないですね。