岩手県・釜石市。3・11まであと60日を切って、希望の年へと踏みだした街は、いまどうなっているのか。人々の生活感覚に、どんな変化が起きているのか。作家の山藤章一郎氏が報告する。
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釜石市第6仮設住宅――ここは、内閣府の資料が指摘する〈超高齢社会〉を迎える予習の場といわれる仮設団地である。
海と、のっぺらぼうを見下ろす町はずれの240戸に、商店街を完成させた。美容室、薬局、電気店、酒屋、食料品店。みな、プレハブである。
津波に破砕された地元のスーパー〈みずかみ〉もここに仮設で再オープンした。住居は3種に分かれ、170戸が一般ゾーン、10戸が子育てゾーン、これに60戸の高齢者、障害者を守るケアゾーンがある。
中心に大手介護事業者が運営するサポートセンターもある。脳トレ体操、高齢者のデイサービス、買い物の手伝いなど、介護士らが24時間待機する。女性だけが集って、趣味やおしゃべりができるママハウスも用意された。
ケアゾーンの小渡正夫さん(70)、寿子さん(66)夫妻の住まいに邪魔した。夫は、新日鉄釜石の元ラガーマン、伝説の7連覇の少し前のウイングだった。現在、肺がんで通院している。寿子さんは陽気に笑い飛ばす。
「こんなことになると思わなかったから懐中電灯2個持って逃げたの。だからな~んにもないの。
下駄箱に靴は2足、お皿もお茶碗もふたつずつ。あとはカセットコンロと鍋と水があれば暮らせるのよ。前はあれも要る、これも欲しいだったけど、3月11日からコロッと変わって、そういう気持ちは全部なくなった。
アパートより自宅がいいと思ってたけど、借家がいいわ。自分の土地がいくら増えても全部、地球のモノでしょ。流されれば一瞬で自分のモノじゃなくなる。いまは、お金持ちも、モノを持ってる人も羨ましいと思わない」
※週刊ポスト2012年1月27日号