5年ごとに開催される中国共産党全国代表大会(党大会)を2012年秋に控えて、日本の中国ビジネス関係者の間で、「(中国の)どの地域に投資すれば儲かるか」という「習近平時代の中国ビジネスのホットスポット」探しが話題になっている。
中国ビジネス歴40年を誇る大手商社幹部は「中国では最高指導者が変わると、経済重点投資地区も変わってくる。それは、意外にもというか、考えようによっては当然と言ってもよいが、自分の故郷や長年の勤務した土地であることが多い」と指摘する。
江沢民政権当時は江前主席が長年勤務していた上海の浦東地区で大規模な再開発プロジェクトが実行された。
いまや上海は中国最大の経済・金融都市として、上海を中心とする長江流域の一大経済地帯で中国全体の国内総生産(GDP)の20%以上を稼ぎ出しており、上海市と近接する浙江、江蘇両省全体では資産1000万元以上(1億2500万円)の富豪の数は約30万人にのぼり、もちろん経済地帯としては中国一だ。
「江氏は上海や近隣の長江経済地帯がもたらした富をもとに、上海閥を形成して自身の政治的基盤を固め、引退後も胡錦濤主席をさしおいて、最高実力者としての権威を誇示している」と前出の商社幹部。
ところで、その胡錦濤主席もなかなかしたたかだ。中国の3大経済地帯といえば、上海を擁する長江経済地帯と香港や深センなどの経済特区を中心とした珠江経済地帯、さらに北京を中心とする渤海湾経済地帯で、長江、珠江の両経済地帯は改革・開放路線が導入後、すぐに開発されたことで知られる。
その一方で、北京はといえば、首都であることから政治都市ということで、経済開発が遅れていた。その北京を中心として、隣接する天津市、河北省唐山地区、さらに遼寧省大連や瀋陽といった東北地区をも含む広大な一体の経済開発を進めたのが胡主席と、温家宝首相コンビである。
胡主席はお膝元の北京を再開発し、さらに東北一帯まで経済的繁栄をもたらすことで、自身の政治的地位を高める狙いがある。また、温首相の故郷は言わずと知れた天津市である。
【発展度合いが低めな地域を開発し中台融合加速させるとの指摘も】
では、次期最高指導者と目される習近平国家副主席の場合はどうだろうか。前出の商社幹部の見立てでは、「習近平時代になって、大規模再開発プロジェクトが始動するのは福建省だ」と予測する。この理由について、「習近平氏は福建省での地方指導者時代が長く20年以上も勤務しており、その愛着は尋常ではない。美人妻で名高い、歌手の彭麗媛と結婚したのも、習氏が同省の厦門(アモイ)市副市長時代で、さまざまな思い入れが詰まっている場所だからだ」と解説する。
福建省では台湾との統一を視野に入れて、経済交流の拡大を目的とした「台湾海峡西岸経済開発区」構想が国家レベルの事業として進められている。開発するのは福建省、浙江省西南地域、広東省東北地域、江西省東部を含む広大な地域で、さらに従来、発展度合いが相対的に低めとなっていた地域の開発を加速させることで、中台融合を加速させ、中台統一を成し遂げる経済的、政治的な条件を整備するという「一石二鳥」を狙っている。
習氏は福建省幹部時代、台湾のビジネスマンとも広く交流し、台湾資本を誘致し、福建省の開発を進めてきたが、自身が最高指導者となって、いよいよ中国一の経済開発プロジェクトを始動させることになる。
「このプロジェクトは中国ばかりでなく、世界でも有数の先端企業を誘致し、中国の国力を結集する巨大なものになり、将来的には中国と台湾が融合しての一大経済地帯の形成を視野に入れていくことになる」と北京の社会科学院経済研究所のエコノミストは指摘する。
中国は2020年までの中台統一を目指しているとみられるが、そのときの最高指導者は依然として習氏であり、2023年の国家主席退任による引退までに、中台の政治的、経済統一を確固としたものにして、歴史的な成果とするというのが、習氏の描いているビジョンであるのは間違いないところだ。果たして世界中の投資家の注目が福建省に集まることになるのだろうか。