今年は日本の国内線に格安航空会社(LCC)が複数参入する。だが、既存の航空会社(レガシーキャリア)が、LCCを設立して生き残りに成功するのは難しいのではないか、と大前研一氏は指摘する。なぜなら、高コスト体質を、どうしても引きずってしまうからだ。以下は、大前氏の解説である。
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まず3 月にANA(全日本空輸)系のピーチ・アビエーションが関西国際空港を拠点として就航し、続いてANAが出資するエアアジア・ジャパンが成田空港を拠点に8 月から国内線、10月から国際線に参入、さらにJAL(日本航空)が出資するジェットスター・ジャパンが年内に成田と関空から国内線参入を予定している。
ただし、日本のLCCは海外のLCCに太刀打ちできないだろう。日本は燃料費と空港の着陸料や搭乗ゲートなどの使用料が高いからである。
マレーシアのエアアジアの場合、国の産業政策によってマレーシア国内で給油する時の燃料費が日本の2分の1ぐらいと安い。それもあって、エアアジアの「1座席を1キロ運ぶ費用(ユニットコスト)」は、ANAの4分の1以下である。
日本も航空産業を守ろうと思うなら、産業政策でトラックが使う軽油をガソリンより大幅に安くしているように、ジェット燃料の値段を大幅に安くすべきだろう。
また、オーストラリアのジェットスターが安い理由のかなりの部分は、オーストラリアの空港は多くが民営化されていて、着陸料や搭乗ゲートの使用料がタダかタダ同然であることだ。空港は機体整備、免税店や売店、レストラン、ビジネスクラスの有料ラウンジなどで稼いでいるのだ。
地方空港のターミナルビルはプレハブの簡素な建物で、高価なボーディングブリッジがなく、乗客はタラップで乗り降りするので雨には濡れてしまうが、航空機がターミナルビルの目の前まで来るから、歩く距離は短く不便はない。
一方、日本の空港は国策で海を埋め立てて滑走路を造り、立派なターミナルビルを建てているから、その建設費の分だけ着陸料も搭乗ゲートやカウンターの使用料も高くなる。たとえば、関空は建設費が2兆8000億円に達し、巨額の有利子負債を着陸料や搭乗ゲートなどの使用料に転嫁しているのだ。
つまり、日本の航空会社が高コストになっているもう一つの原因は、政府が空港を、公共工事を行なうための“ハコもの行政”として無節操に造ってきたことのシワ寄せなのである。したがって航空行政がこのままでは、LCCのコストもさほど安くはならないのだ。
※週刊ポスト2012年1月27日号