福島第一原発の事故について政府は収束宣言を出した。しかし原発に対する安全対策はいまだまとまっていない。元原子炉設計者でもある大前研一氏は、約2か月の緊急調査で、原発設計時に“たまたま当初の設計指針から外れた”電源設備が結果的に被害を抑えていた事実を解明した。大前氏が今後とるべき安全対策について提言する。
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私は昨年12月21日、ボランティアでまとめた「福島第一原発事故から何を学ぶか」最終報告書を細野豪志原発相に手渡した。これは10月28日に提出した中間報告書に、関西電力などが採用しているPWR(加圧水型原子炉)についての調査・分析を加えたものである。
PWRの場合は自分が発生させた蒸気で冷却する装置が何重にも付いているので、今回と同じ事態になってもバッテリーが1つ確保できれば、東京電力のBWR(沸騰水型原子炉)よりは冷却が確保できて生き残る確率が高い、という結論になった。
ただし、これまでは新潟県中越沖地震の柏崎刈羽原発や今回の福島原発、女川原発、東通原発、東海第二原発などBWRしか大地震を経験していない。PWRが大地震に襲われた時にどうなるかは、未知数だ。
したがって、今後の安全対策はPWRもBWRと同じである。冷却さえできればメルトダウンは起きないのだから、設計思想を「確率論」(確率が低ければ想定しなくてよいという発想)から「どんなに大きな地震や津波に見舞われても(あるいは旅客機が墜落したり、テロリストに襲撃されたりしても)原子炉の電源と冷却源を確保する」に転換し、電源と冷却源を「多様化・多重化」する。つまり、非常用のディーゼル発電機やバッテリーを高所に設置するだけでなく、異なる原理の電源と冷却源を用意し、その数も増やせばよいのである。
※SAPIO2012年2月1・8日号