女性のものだと思われがちな「更年期障害」だが、実は男性にもあるのだという。さらには、夫の更年期障害が妻に悪影響を与えることも少なくないのだ――。
ある土曜日の昼下がり。診療室に50代の夫婦がはいってきた。夫に従うように妻が着席すると、医師が静かに問診を始めた。
「ご主人の体調は、その後いかがですか」
「特に…変化はありませんね」
夫がぶっきらぼうに答える。今度は妻に医師が聞いた。
「奥さんが見ていて、ご主人の様子はいかがですか」
妻は待ってましたとばかりに、夫ではなく医師に向かって不満を話し始めた。
「この人が家にいるようになってから、大変なんです。出かけようとすると、どこに行くんだと細かく聞かれて“おれの昼飯はどうなっているんだ”と怒ります。もう、本当に困ってます。私も肩こりがひどくて、めまいまで…」
妻の愚痴は止まらなかった。この日、30分の診察のうち、妻が話した時間は約15分。夫とはわずか2、3分のやりとりで、医師の質問に短く答えただけだった。
ここは、「男性更年期外来」。しかし、患者の妻、つまり女性の更年期障害患者も通う。診療を担当しているのは、大阪大学大学院准教授で『夫源病-こんなアタシに誰がした-』の著書もある石蔵文信さん(56)だ。
一般に更年期障害とは、日本女性の平均的な閉経年齢50才前後を挟んで前後5年ずつ、計10年間の“更年期”に表れる不快な症状が、日常生活に支障をきたすことを指す。ただしその期間や症状は個人差がかなりある。女性はエストロゲンなどの女性ホルモンが減少することによって、不眠やのぼせ、ほてり、多汗などのさまざまな症状が出るため、女性ホルモン補充療法や漢方で治療をするのが一般的だ。しかし、こういった治療でも好転せずに、長年苦しむ人も少なくない。
「女性の更年期障害の原因は性ホルモンの減少とされますが、それだけで説明がつかないこともあります。閉経後、ずいぶんたった60代で症状が出たり、ホルモンの値に異常がなくてもつらい症状が出る女性もいます。更年期障害の裏には、メンタルストレスが隠れているケースが多いのです」(石蔵さん)
もともと循環器科専門医の石蔵さんが行う「男性更年期外来」は、中高年男性の多くが悩まされる頭痛や耳鳴り、不眠、ED(勃起不全)などの女性の更年期に似た症状が、高血圧症や糖尿病など循環器系疾患に関連しているところから始まった。これまで約600人を診察してきたが、その妻の多くも更年期の症状に苦しんでいることに気づいた。
「最初は、男性がなかなか口を開かないので、情報源のつもりで奥さんに同席をお願いしていたのですが、話を聞くと同様の症状が表れていたので、奥さんも更年期障害を抱えていることに気づきました。しかも、“夫の顔を見るとめまいがする”“夫の足音だけで動悸が早まる”といった、夫が原因としか考えられない症状を訴える。そうした夫による更年期障害・症状を『夫源病(ふげんびょう)』と名付けて治療してきました」(石蔵さん)
※女性セブン2012年2月2日号