北朝鮮の金正日総書記の死後、金正恩体制の構築が急ピッチで進んでいるが、キーパーソンとして注目が集まっているのが金正日の実妹・金慶喜だ。ジャーナリストの惠谷治氏が金慶喜を始め後継者・金正恩を支えるキーパーソンたちを分析する。
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金正日の死亡が発表されて以降の北朝鮮の映像や画像からは多くのことが読み取れる。 まず興味深いのが、金正日の遺体参拝や告別式に姿を見せた「4人の女」の存在だ。ロイヤル・ファミリー内の力関係の変化や今後が透けて見えてくる。
一人目は金正恩の後見人となる、金正日の実妹・金慶喜だ。2010年9月に朝鮮人民軍大将の「軍事称号」を授けられており、朝鮮労働党政治局員を兼ねる。生前、金正日は部下に対し「金慶喜を自分と同じように待遇せよ」と指示しており、同じ母から生まれた唯一の肉親として寵愛した。正恩体制における最重要人物と言っていい。昨年12月20日に、遺体の前に現われた際は序列5番目で参拝し、存在感は日に日に増している。「核兵器の安全装置解除コード」を知る数少ない一人であると見られている。
対照的に権力中枢から遠ざかったのが、金正日の個人秘書兼愛人であった金玉だ。昨年の金正日の中国・ロシア訪問に同行し、最高権力者のすぐ側に付き従っていたが、わずか4か月後の金正日の死で立場は一変。遺体に参拝した際は泣き崩れ、その後、正恩に対して頭を深々と下げて退場していった。
一方、新たに注目を浴びたのが、金正恩の妹である金汝静だ。折々で金正恩のすぐ後ろに控えていた女性こそ、父・金正日が溺愛したという娘だと見られている。まだ24歳とはいえ、金慶喜が権力を握っていることからもわかるように、「最高権力者の妹」が将来的に金正恩を支える存在になる可能性は大きい。
さらに、12月28日の告別式の映像には、金汝静とは別の新たな「謎の女」が姿を見せている。この女性の素性は現在のところ不明だが、金一族や党、軍の最高幹部が顔を揃える場に登場していることから、何らかの重要な立場にいると予想でき、金正恩の個人秘書である可能性がある。金正日の個人秘書であった金玉が権力中枢にいたことからも明らかだが、この「謎の女」も今後のキーパーソンとなり得る。
※SAPIO2012年2月1・8日号