「暴力団と原発の繋がり」が噂レベルで語られることはあっても、確たる証拠はなかなか出ない。暴力団関連の記事を数多く執筆するフリーライター・鈴木智彦氏は、その「繋がり」を探るため、震災後に自ら作業員となって福島第一原発に潜入。『ヤクザと原発』(文藝春秋刊)を発表した。そして刊行後、新たな動きに直面した。
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元日、コタツで文庫本を読んでいたら携帯電話が鳴った。ディスプレーに「原発●●」という名前が映し出された。
昨年夏、作業員として就職し、東京電力福島第一原発(以下=1F )に潜入取材した際、私は身分を偽っていた。その時に仲良くなった作業員たちの番号は、名字の上に“原発”の二文字を付けて端末に登録してある。
久しぶりの電話をくれた彼とは東芝系作業員休憩所(通称・シェルター)の喫煙所で意気投合し、何度か飲んだ仲だ。九州からの出稼ぎグループの一人で、鍛冶、溶接、配管などの職人ばかりの8人は、全国の原発を転々としているらしい。年齢は30~50歳代と幅広かった。リーダーは50歳手前の電気屋(溶接工)だ。
「明けましておめでとう! なんねー、鈴木さん、いま替わるばい」
返事をする間もない。相変わらずせっかちだ。懐かしい。今でもはっきり覚えている。「もしもし、あんた、鈴木さん? あの鈴木さん? いつ原発行っとったの? なんで言わんの?」
こちらのダミ声にも覚えがある。いや、忘れてはならない。ああ、なるほど、やっぱりそういうことだったのか……。
「組長、お久しぶりです。ご無沙汰しております」
ダミ声の主は、ネタ元の広域指定団体幹部だった。付き合ってもう10年ほどになるが、そういえば深いシノギの話をしたことはない。思いがけぬ年始の電話により、あの8人がこの組長を経由し、1Fの緊急対応に配備された作業員だったことが判明した。
電話をかけてきた作業員の発注元が払う日当は3万~5万円だったから、平均一人あたり4000円を抜いていると仮定し、組長の不労所得は1日3万2000円である。
グループは60日ほど勤務したはずだから、総額192万円のシノギだ。
「組長、夏にけっこうなボーナス稼いでたんですね。今度ごちそうして下さい」「いまの……喉から手が出るほど欲しい話やったろうもん。あんたがごちそうせんといかんばい」
思わず苦笑いした。たしかにこれは最高のお年玉だ。この事実で、よりいっそう自信を持って断言出来る。暴力団と原発は今でも密接な関係にあり、作業員供給に関して言えば、完全に黒だ。
暴力団が原発利権に関わっているという噂レベルの話は、全国各地で耳にする。事故を起こした1Fでも、どこまで裏が取れるかが問題だった。もし可能なら『どこの組織』が、『どこの会社』と繋がり、『何の名目』で、『どれだけ利益』を得ているか。
『実際に暴力団員が働いている』のか、それとも『作業員を供給している』だけなのか。この程度は押さえたいと思った。
昨年4月、まずはいわき市のハローワーク平に出向き、原発作業員の求人を探した。
求人を出している会社に足を運び、登記簿をあげ、手持ちの資料を付き合わせた。地元暴力団の知人にも大ざっぱな判別を手伝ってもらった。
それを26社ほど繰り返し、3社のフロント企業が見つかった。役員に現役暴力団員の名前が載っている。一切の偽装を行なわないザ・フロント企業など、関東から西では絶滅種である。
取材を進めるうち、世界的英雄となった「フクシマ50」にも、現役暴力団員がいるだろうことが分かった。日立の系列社員で、組織名も名前も判明した。
断言できないのは、当人が一度、仕事のためにヤクザを引退し、その後復帰しているからだ。3・11当日、組織の構成員だったのか……名簿などそれを証明する物証がない。そのためどうしても100%と言い切れない。
ただ、昨年末に行なわれた作業員調査では、暴力団の属性を「引退状・または絶縁状が出されて5年以上」と定義する企業と、年月に関係なく「脱会届を出してあれば問題ない」とした企業に分かれた。
前者の条件ならどちらにせよ黒だ。協力企業はそれぞれどちらかの基準に照らし合わせて、自分たちの使っている作業員に暴力団員がいないか確認し、東電に書面を提出している。
※SAPIO2012年2月1・8日号