金正恩体制が崖っぷちで、北朝鮮はいまにも崩壊しそうだといった情報に慣れてしまった日本人には、耳の痛い話かもしれない。米国も中国も韓国も、国際社会で上手に振る舞っている。そして、日本だけ置き去り? ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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今年1月16日、北朝鮮の首都平壌にアメリカ最大の通信社であるAP通信が初の支局を開設し話題となった。中国では上海RTS(上海ラジオテレビ局)が支局開設式典の模様などに触れ、「北朝鮮に進出した最初の国際的報道機関となった」と報じている。
支局開設といってもとりあえずはAP本社から常駐記者を派遣することはせず、朝鮮中央通信社の記者が活動を代行することになるというから、報道機関としての大きな一歩を踏み出したとは言えないようだが、この支局開設は政治的により大きな意味を含んでいると考えるべきだろう。
朝鮮中央通信社の社長は中国のテレビ局の取材に対し、「米朝関係は現在特殊な時期にあり、AP通信の支局の開設がお互いの誤解の解消や両国関係の正常化、または両国民の理解の促進に積極的な役割を果たすことを希望する」との意味深なコメントを出しているのも興味深い。
金正恩体制が崖っぷちで、北朝鮮はいまにも崩壊しそうだといった情報――この手の話はずっとあるのに日本では厳しく結果責任が問われることはない――に慣れてしまった日本人には違和感のある話題に違いないが、北朝鮮を取り巻く国々(日本を除く)は、十分に警戒しつつも、一方でもう一つの門まで閉ざすことはしないのである。
事実、昨年末から米朝間で食糧支援の再開について話し合いが進められているし、韓国は金正日死去後に訪れた中国で、6か国協議の前に南北会談を開催したいという意向を伝え、その可能性を中国にも打診したのだが、韓国が金正日弔問団を制限したことによって北朝鮮が怒っているので、「それには応じないだろう」と中国が伝えるといったやりとりもあったのである。
そもそも韓国は、南北会談再開の条件として一昨年に起きた天安号撃沈に対する北朝鮮政府の正式な謝罪を求めていたはずだったのだが、いつのまにか妥協して無条件での開催を呼び掛けているのだ。
生き馬の目を抜く国際社会で、気がついたとき日本だけが置き去りにされているといったことのないよう、聞きたくない情報にも耳を傾けるべきではないだろうか。