今年秋の中国共産党大会で中国のトップに就くことが確実視されている習近平・国家副主席。「無趣味」とか「面白みがない」などとネガティヴな評価が先行しているものの、実は習氏の唯一ともいえる趣味がサッカーであることはほとんど知られていない。
北京の外交筋によると、2009年10月のドイツ訪問で、習近平氏が熱狂的なサッカーファンであることが知られるようになった。
習氏が会見した製薬会社「バイエル」のヴエルナー・ヴェニング社長に、「中国のサッカーをレベルアップさせて、中国チームがワールドカップで優勝することが私の夢だ」と熱烈な思いを話したというのだ。
習氏とヴェニング社長は当初、単なる表敬訪問で、会見時間も5分程度の予定だったが、サッカー王国であるドイツの社長が習氏に「サッカーは好きですか?」と尋ねたことから、話題がサッカーになり、30分以上も話が盛り上がったという。
「中国には一流のサッカーファンがいて、世界的なサッカー市場があるが、現在のレベルは依然として低いので努力してトップレベルに追い付きたいものだ」
こう習氏が語ると、社長は「中国ではオリンピックも開催し、多くの種目で金メダルをとった。貴国はサッカーでも強くなれるでしょう」と返した。習氏は上機嫌となって、次のように述べたのだ。
「サッカーのレベルアップには長い時間がかかっても、中国チームをワールドカップで優勝させることが私の夢だ」
その言葉通り、習氏は外遊から帰ると、八百長疑惑で揺れていた中国サッカー界の立て直しをするために、史上最大規模の犯罪撲滅運動を展開。2009年10月から2010年1月にかけて、中国サッカー協会の役職員、審判員、サッカークラブチームの上層部など多数のプロサッカー関係者が逮捕されたが、この犯罪撲滅運動を陰で推進したのは、ほかならぬ習近平氏だったと言われている。
さらに、習氏は2011年7月に中国を訪問した韓国の最大野党、民主党の孫鶴圭(ソン・ハクキュ)代表と会談した際、自身の「中国サッカーに関する三つの願い」を披露し、「中国チームがワールドカップに出場するほか、中国でワールドカップを開催し、その大会で中国チームが優勝することが私の最大の夢なのだ」と熱っぽく、自身の願いを語ったのだ。
その習氏が中国チームの悲願達成のモデルケースとして注目しているのが日本チームであることは、あまり知られていない。
実は中国国家体育総局副局長を団長とする総勢11人の「国務院サッカー調査研究グループ」の視察団が昨年10月訪日している。同視察団のNo.2は中国サッカー協会会長の韋迪氏であり、さらに国務院政策研究室、教育部体育衛生芸術教育司、国家発展改革委員会などの幹部が含まれている「政府レベル」視察団だったのだ。
彼らは日本サッカー協会、文部科学省、Jリーグなどを訪問したほか、浦和レッズなども視察し、躍進著しい日本サッカーの経験を吸収して帰国した。
それと前後して、中国のプロサッカーリーグは著名な外国人の監督やプレーヤーを招請しており、日本代表監督の岡田武史氏もその一人となった。
中国メディアは「金持ち中国、岡田武史を奪った次は、仏ジャン・ティガナ」と伝え、その直後、「上海申花」監督に元フランス代表MFのティガナ氏が就任したと報道。すでに、アルゼンチン出身でブラジルのフルミネンセFCでプレーしていた攻撃的MFダリオ・コンカ選手、フランス出身でかつて英プレミアリーグ得点王にも輝いたFWニコラ・アネルカ選手も中国リーグで活躍している。
「深セン紅鑽」の監督は、元日本代表監督のおなじみフィリップ・トルシエ氏だ。2011年8月には元スペイン代表監督のホセ・アントニオ・カマーチョ氏が中国代表チームの監督に就任している。
中国の次期最高指導者、習近平氏の肝いりで、中国のサッカー界が大きく変わり始めているのは間違いなく、習氏が最高指導者となる今年秋から10年間の任期中に、中国チームがワールドカップで活躍するのも、あながち夢ではないかも知れない。