中国共産党幹部の国外脱出が相次いでいる。すでに1万人を超え、持ち出した金額も1000億ドル以上。バブル崩壊の兆しが見え始めた中国。さらには北朝鮮の情勢不安定で中国人富豪のエクソダス=大量国外脱出は止まりそうにない。中国人の国外脱出について、評論家の宮崎正弘氏が解説する。
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「EB‐5ビザプログラム」というのがある。米国に100万ドル(約7700万円)の投資、または失業率の高い指定地域において50万ドルの投資を行ない、投資家ひとり当たり10人の新規雇用をつくれば、最短1年で米国の永住権を取得できるというものだ。
米国務省の発表では、2009年にこの「EB‐5ビザ」を取得した外国人のうち、実に46%強が中国人だった。
さらに驚くべきニュースが昨年12月に流れた。北京大学が共産党幹部の逃亡について調査した結果、1999年から2009年までの10年間で逃亡した共産党幹部は1万人、海外へ持ち出されたカネは1020億ドル(約7兆8000億円)だったという。
09年以降、現在までには逃亡者はさらに激増しており、公表されない金額は、おそらくその3倍になるだろう。
このため、中国の全空港では逃亡の恐れがある人物のリストが回覧され、出入りを厳重にチェックしている。私が取材で訪れた先でもその光景をよく目にした。
「2011年版・中国長者番付」(胡潤研究院作成)によれば、資産1000万元(約1億2000万円)以上の富豪は96万人。そのうち1億元以上が6万人、10億元以上は約4000人、100億元以上は200人となっている。
これら富豪の職業分類は、企業経営者が55%、不動産関連20%、投資家15%、企業集団、多国籍企業の高級管理職が10%となっている。
注目は公職に就いている富豪層で、その数は153人。中でも全国人民代表大会(全人代=国会)代表が75人。全国政治協商会議(全国政協)委員が71人。党大会代表7人。つまり、エリート党幹部に成り金が集中しているのだ。
香港誌『開放』(2011年10月号)は「政治局員のほとんどがスイスに秘密口座を保有しているのは常識」とした。
これら共産党幹部を含む大富豪が財産を海外へ持ち出す“エクソダス”の主役である。
資金の流れる先は、前述のように米国の永住権を得るための投資。あるいは、ロンドンの高級住宅地の保有。ロンドンの高級住宅地の28%は中国人が保有し、そのうちの54%はロンドン中心部に位置するという。イギリスの不動産サイトによれば、その平均価格は約500万ポンド(約6億円)。
またカナダのバンクーバーでも閑静な住宅地を購入しているのは30%が中国人である。日本でも東京・台場のマンションを棟ごと買ったのは温州の投機集団だった。
これら中国の大富豪たちは、子息や親戚縁者を海外留学に送り出し、やがてその土地に住まわせる。高等教育や水準の高い医療など良い教育・社会環境を得るためだというが、ホンネは自由のない中国から出たいということだろう。
※SAPIO2012年2月1・8日号