テレビにはほとんど出演しない世界屈指の経営コンサルタントである大前研一氏。その大前氏が、『「リーダーの条件」が変わった』をテーマに、60分間語った特別講演の肉声が、オリジナルCDとしてSAPIO2012年2月1・8日号の付録に付いている。大前氏が語ったリーダーシップ論の一部を紹介しよう。
【「追いつき追い越せ」の時代は終わった】
〈なぜリーダーの条件が変わったのか。明治維新以来、日本は欧米に「追いつき追い越せ」でやってきた。進むべき方向は決まっているので、それをどのくらいのスピードでやるかという問題だった。
しかし、例えばトヨタはGMに追いつき、1位になったら、今度は追われる立場になった。そうなると、違う方向を打ち出すことが必要になる。今のリーダーに求められているのは、先がまったく見えない中、進むべき方向やビジョンを示すことである〉
【「リスクを取れるリーダー」へ】
〈リーダーは、リスクを取る人でなければ、現場がついていかない。福島第一原発の吉田昌郎前所長も、リスクを取って、現場に残り冷却を続けた。あの時、吉田前所長自身がリスクを取らず、現場を離れていたら、おそらく全員が帰っていたであろう。
GEのジェフリー・イメルト会長兼CEOは、新しいリーダーを選ぶ時、リスクを取る人間なのかどうかを見ている。得なことと損なことがあれば、一見、損と見えることもやって、成果を出してきたのか、ということだ〉
【新しい「経済のメカニズム」を理解せよ】
〈今、世界経済を動かしているのは、産業革命以降の、いわゆるケインズ経済ではない。オバマ大統領はケインズ経済の教科書通り(金融緩和を)進めているが、雇用は改善していないし、経済はよくなっていない。
これは、「ボーダレス経済」になっているからだ。金利を下げたら、お金は逃げていく。日本はゼロ金利にしたら、他国が円を借り、国外で運用する円キャリートレードが起きた。アメリカも同様だ。経済がボーダレスになっていることを理解していないのである〉
〈「マルチプル経済」も重要だ。アメリカではグルーポンが上場したが、(模倣も簡単で大した価値がないと思われるのに)1兆円以上の時価総額がついた。これは、「マルチプル(倍率)」が高いということである。市場がその会社の将来をどう見ているかということが反映されている。
もうひとつは、「サイバー経済」だ。アメリカではクリスマス商戦初日に、インターネットの使用量が5%以上も上がった。これらの新しい経済の動きを理解していないと、これからのリーダーは方向性さえ打ち出せないだろう〉
※SAPIO2012年2月1・8日号