1月4日、大阪市の橋下徹市長は大阪市の職員組合を束ねる「市労働組合連合会(市労連)」の中村義男・執行委員長と面談した。中村氏は、昨年11月の市長選に絡み、組合員が庁舎内で政治活動を行なっていた事実を認めて謝罪したが、橋下氏はその場で、庁舎地下1階にある各労組事務所の退去を要求するなど、職員に対して初手から強攻策に打って出た。
橋下氏には、「役人を敵視する」というイメージが強いが、全員を敵に回そうと考えているわけではない。方針を実現するために必要な職員は登用する。職員に職員をコントロールさせ、職員全員が反改革とならないようにしているのだ。職員の人事・給与など市役所改革の肝を熟知する総務局長を副市長に起用する考えを表明し、「彼はスーパー官僚」と持ち上げてみせたのもその一環だろう。
橋下ブレーンとして、府と市の特別顧問に招聘された上山信一・慶応大教授が語る。
「私は2006年に当時の関淳一・市長に依頼されて、市の事業見直しに携わりましたが、その作業の中で改革派と見られる職員は把握済みです。平松前市長時代に異動させられていた改革派の職員を呼び戻し、橋下氏のもとで改革を粛々と断行させます」
では、改革反対派の扱いはどうか。
橋下氏は昨年12月に局長級を含む89人の異動を決め、平松邦夫・前市長を支えた幹部職員6人を総務局付とした。誰もが、彼らは冷や飯を食わされるか、退職を余儀なくされると思ったが、その1週間後には6人を現業職員改革チームの実動部隊に任命した。もともと反改革派だった人物を使って“それまでの仲間を改革させる”のも、分断統治のセオリーである。
実は橋下氏は大阪府知事時代にも、バトルを繰り広げた守旧派職員を、大阪マラソンの責任者に抜擢し、周囲をあっといわせている。
公務員改革に精通する木下敏之氏(前佐賀市長)が指摘する。
「橋下さんは人事権をしっかり行使する。職務命令に従わない職員には容赦ないが、優秀だと認めた者はたとえ守旧派だったとしても要職に就かせ、成果を出せば出世させる。民間では当たり前の感覚ですが、それを役所内に持ち込むのはなかなか難しい。しかし、それをいとも簡単に実行に移すあたりが、改革のうまさを感じさせます」
野田政権の面々のように「役人に媚びる」のとは正反対だ。そして、鳩山政権時代の長妻昭・厚労相や菅直人・国家戦略相のように、「官僚は悪人だ」「官僚は大バカだ」と吠えるばかりとも違う。それが橋下流なのか。
※週刊ポスト2012年2月3日号