日本の自動車メーカーが再びスポーツカーに力を入れている。はたして日本の消費者の車選びはどうなるのか? 大前研一氏は、そもそも日本の自動車市場は、世界で類を見ない状況になっていると考えている。以下は、大前氏の解説だ。
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東京モーターショーでトヨタが発表した、今春発売予定の小型スポーツカー「86」のような“スポーティーカー”は、今は買う人が少ない。
このセグメントは、かつては日産「シルビア」やホンダ「インテグラ」などが、スタイルや走りの良さに憧れた若い男たちに売れて一世を風靡したが、その人気は1980年代に失われてしまった。なぜなら、それ以降の日本は一家に1台のファミリーカー時代になり、車を買う時の意思決定者が複数になったからである。
つまり、車種は普段使う息子や娘が選ぶが、購入資金を出す父親も時々運転するという、先進国でも日本だけの現象が起きたのである。
その最初の10年ぐらいは、未舗装路のない日本では全く不要で街乗りに不向きな4輪駆動のSUV(スポーツ用多目的車)が売れていた。合理的に見ると最も理解に苦しむ車種選びで、日本人は判断を誤っていたとしか思えないが、意思決定者が複数だとそういう結果になってしまうのだ。
その行き着いた先がワンボックスカーである。家族で旅行や帰省をする時に5人乗りのセダンでは少々窮屈ということで、ゴールデンウィークや年末年始など年に数回の家族全員利用に合わせて7~8人乗りのワンボックスカーを選択し、大半の時は1人で乗っているという、これまた非合理的な判断をしているわけだ。
かくして日本の道路は、不格好で非経済的なワンボックスカーがあふれるという世界でも類を見ない珍奇な状況になったのである。
そして今は軽自動車ブームである。家族それぞれが通勤や買い物などの日常利用に合わせて最適化すると、みんな維持費が安くて駐車スペースが小さくてすむ軽自動車を選ぶ。
だから車が生活必需品の地方では、家族全員が軽自動車を保有する時代になり、一家に軽4台というケースも珍しくなくなっているのだ。
※週刊ポスト2012年2月3日号