オウム真理教元幹部の平田信被告(46)と逃亡生活を続けた斎藤明美容疑者(49)が偽名として使っていた「吉川祥子」の名義で正規の健康保険証を所持していたことで衝撃が走った。
斎藤の場合は、本人が意図せず偶然に会社の健康保険証を手に入れたようだが、この「なりすまし天国」は、すでに大きな社会問題を引き起こしている。
わざわざ偽名で会社に勤めたりせず、しかも架空の人物名義で保険証を入手する方法もある。市町村の役所で申請する「国民健康保険者証(国保証)」である。調査会社勤務の男性は、本誌取材にそのやり方を詳細に説明した。
もちろんこれは犯罪の手口なので、ここでは紹介できないが、厚労省に確認したところ、「現状では取得可能な仕組みになっているといわざるを得ません。確かにご指摘の方法で加入できます」(国民健康保険課)と、苦悩の回答が返ってきた。
現実に、これは裏社会で常識とされるテクニックで、あるヤミ金業者の男性は「世間が知らなかったことに逆に驚いた」とまでいう。では、偽名の国保証はどんな用途に使うのか。ヤミ金業者はこう続ける。
「以前は、利子を払えない多重債務者に偽名の国保証をもたせて消費者金融に借りにいかせ、踏み倒させた。借金で夜逃げする人間は住民票を移すと居場所がバレるので、そのままにする。だから、そいつになり代わって国保証を作り、他の債務者に金を借りさせ、損失補填することもある。一部暴力団は、そいつらの転出届を利用し、ダミーの住民票まで取得していた」
もっとも最近では、この保険証詐欺は広まりすぎて、消費者金融もヤミ金も保険証だけでは金を貸さなくなった。だが、架空の人物名義の携帯電話契約などは、いまでもできるという。
※週刊ポスト2012年2月3日号