毎年のように、メジャーに人材が流出している日本球界。ならば、日本球界が衰退するのか? 今季のプロ野球がつまらなくなるのか? 冗談じゃない――。集まり散じて人が変わっていくのは、いつの時代も世の常。スポーツジャーナリストの安倍昌彦氏は、ソフトバンクのエースだった和田・杉内の両左腕が抜けた穴を埋める存在として、3年目・川原弘之の名前を挙げる。
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ソフトバンクは、和田毅投手がボルチモア・オリオールズへ、川崎宗則遊撃手がシアトル・マリナーズへ。「左腕王国」のもう一角だった杉内俊哉に加えて、チーム最多勝(19勝)のD.J.ホールトンまで巨人へ移籍して、まさに「お家の一大事」。
この3人の先発陣で昨季は43勝をマーク。チーム88勝でパ・リーグを制したことを考えると勝ち星の半分が消える勘定になる。西武からFA選手・帆足和幸投手(昨季9勝6敗)を獲得しても、先発陣がもう1枚足りない。昨季も14勝を挙げた攝津正に岩嵜翔、大場翔太、山田大樹、そして移籍の帆足。もう一つ空いている「椅子」に名乗りを挙げそうなのが、今季3年目の川原弘之投手だ。
福岡大大濠高から入団、今季21歳の若武者。185cm・84kg、均整抜群の体躯から投げ下ろす速球で押しまくる投球の大型左腕。和田、杉内の将来展望を織り込み済みだったソフトバンクは、「その時」を見越して数年前から手を打っていた。その「次期」を担うべき人材の1人である。
昨夏のフレッシュオールスターがすごかった。1イニング16球の投球のうち、11球が150km台。しかも、その初球でいきなり155km。これは、ヤクルトのストッパーで活躍した石井弘寿(現二軍育成コーチ)に並ぶ「プロ左腕最速」である。
それ以上にコンスタントに150km台を続けて、しかもコントロールに破綻のない実戦性が秘めた能力の大きさをいたく感じさせた。変化球? そんなものはこれからだけど、150kmでストライクがとれるなら、スライダーがちょっとすべればそれだけで十分だ。
※週刊ポスト2012年2月3日号