日本医師会がTPPの反対を叫んでいる。だが、厚生労働省幹部は、「あれは日本医師会が勝手に騒いでいるだけ」と、努めて冷静な口調で語る。いったい、その裏には何があるのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏が解説する。
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昨年より熱を帯びてきた環太平洋経済連携協定(TPP)への参加協議を巡る議論。農家からの猛烈な反対があるが、日本医師会も絶対反対の立場を取っている。仮に参加が決定した場合には、公的医療保険制度の崩壊に繋がると訴えている。
だが、厚生労働省幹部が、努めて冷静な口調でこう言う。
「あれは日本医師会が勝手に騒いでいるだけ。厚労省内部で、この件について議論らしい議論は行なわれていない」
日本医師会が警鐘を鳴らす通り、事態が推移する可能性があるならば、所管官庁の厚労省としても当然、TPP反対派に与するはずだ。しかし、コメントからも明らかなように、そうはなっていないようだ。
「それはつまり、仮にTPPに参加しても公的医療保険制度が崩壊する可能性はない、と厚労省は考えているからだ」(前出・厚労省幹部)
にもかかわらず、日本医師会が盛んにTPP反対の論陣を張っているのはなぜだろうか。この幹部は呆れ半分にこう言う。
「今年は何があると思う。日本医師会の会長選挙だ。それが反対を叫ぶ要因の一つだ。われわれ厚労省サイドとしては、そう見ている」
TPP参加反対でシャカリキになっているのは、会長選挙に出馬を予定している人物が中心となっているグループ。つまり、TPP反対運動は、会長選挙へ向けた格好のデモンストレーションになるというわけだ。
それとは別にもう一つ、大きな事情があると日本医師会幹部は言う。
「今年は診療報酬の改定作業も行なわれる。ここでTPP参加問題でゴネれば、政治サイドからある種の譲歩を引き出して、診療報酬の大幅な引き上げにつなげることができると医師会サイドは踏んだのだ」
高齢化により増大する一方の医療費を抑制するため、財務省内では診療報酬を抑えようという流れが強まりつつある。そんな中で、TPP反対は、医師の実入りに直結する診療報酬を引き上げるための格好の「お題目」だったということか。
※SAPIO2012年2月1・8日号