かつて官僚の無駄遣いについて「シロアリのようだ」と批判し、駆除しなければいけないと語っていた野田佳彦首相だが、今では“脱官僚”どころか、財務省のいいなりになっている。
野田首相―岡田克也副総理の体制下でシロアリ官僚の増殖は着実に進み始めた。
総額約96兆円という過去最大の来年度予算案の中身を見ると、まさに役人が税金を「入るだけ使う」というになっている。
野田首相は国家公務員の給与を平均7.8%引き下げる給与カット法案を「社会保障・税の一体改革(消費税増税)と一体で理解する人が多い。今国会で必ず成立させる」と言明した。予算案は、税制改正など関連法案が成立することを前提に組まれる。給与カットに本気で取り組むなら、予算上も給与費が減らされているはずである。
しかし、来年度予算案の国家公務員給与費は3兆7737億円で、削減どころか今年度(3兆7642億円)よりざっと100億円も増やされている。子ども手当の廃止(支給額カット)や年金支給額の減額など、国民の社会保障給付は政府方針通りに減らしているが、役人の特権だけは温存が最初から決まっているのだ。
そもそも公務員給与カット法案は、大震災後の昨年6月、菅内閣が国民に復興増税(10年間で約11兆円)を強いるかわりに提出した。法案にも「東日本大震災に対処する必要性に鑑み、国家公務員の人件費を削減する」と書かれている。
復興増税法はすでに成立し、国民への所得税増税は決まった。だが、給与カット法案は過去2回の国会で成立せずに公務員の給料は下がっていない。給与カットの期間は2014年3月までと限定されているから、成立が遅れるほど公務員の人件費削減で捻出するはずの復興財源は減り、役人はその分、本来減らされるはずの給料がもらい得になる。
年収約2300万円の勝栄二郎・財務事務次官(削減予定幅は1割)の場合、成立が半年遅れていることで115万円ほどが、本来の政府方針より余計にポケットに入った計算になる。
野田首相は、国民が復興増税など忘れたと思って、今度は同じ給与カット法案を「消費税増税の条件」に使い回している。演説と同じで、その場その場で都合のいい口実をいうだけの口先政治家であることは誰の目にも明らかだ。だから、マニフェストの「国民の生活が第一」を、いまや「役人の生活が第一」にすり替えて平気な顔をしている。
国民は復興増税に加えて消費税の恒久増税という二重の増税を突き付けられている。増税以前にさらなる恒久的な公務員の人件費削減をはかるべきだし、国の歳入が減ったなら、増税や社会保障切り捨てを許すのではなく、自動的に公務員の人件費を減らしていく仕組みに改めれば、「入っただけ使う」という役人の論理からして無駄な予算は削れるに違いない。
政治にその覚悟がないことを見透かした官僚たちは、財政危機の中で「高齢役人の天国」までつくろうと画策を始めている。昨年9月、人事院は政府に国家公務員の定年を来年から3年に1歳ずつ延長し、全員を原則65歳定年にすべきという「意見」を提出した。
年金支給開始年齢の引き上げに合わせて、年金受給までの「空白期間」をなくすというものだ。しかも、定年延長後の月給はピーク時の給与の73%、ボーナスは年間3か月分支給。民間の高齢者がどれだけ苦しいか、気にもとめない計画だ。
※週刊ポスト2012年2月3日号