ここしばらく、CM界では「オトナグリコ」の「サザエさん実写版」、トヨタの「ドラえもん実写版」、022(オー人事)で知られるスタッフサービスの「アニメ版サイボーグ003 by神山健治」など、元となるアニメキャラを変化させたうえで採用する例が目立っている。
たとえばスタッフサービスの場合、「目と耳がものすごく良い」ことが特色の『サイボーグ009』の紅一点・サイボーグ003を正社員として採用。彼女が職場にかかってくる電話を瞬時に判別する動画では、営業の電話、顧客のクレームといった相手からの内容を、電話をとる前に同僚に伝え、心の準備をさせるために大活躍。しかし部長の愛人まで判別した挙句、職場中にバラしてしまう…そんなワンシーンを「がんばり方、間違えてない?」として問題提起した(現在は、女優・多部未華子が登場する「サイボーグ022」にスイッチしている)。
アニメキャラをそのまま使うのではなく、変化させ、そのキャラクターに企業の言いたいことを言わせる例なのだが、これらの利点は何なのか。
コピーライターのこやま淳子さんによると、「CMは、“いかに覚えてもらうか”ということが重要なだけに、みんながよく知っているアイコンが求められます。そういった意味では、アニメキャラはうってつけですよね。ドラえもん、サザエさん、サイボーグ009もそう。アニメキャラを使うと、企画が面白くなったり、注目されやすいということは絶対あると思います」とのこと。
そして、こやまさんは、サザエさんをはじめとした国民的人気アニメキャラは老若男女に通用し、人間のタレントではなかなか見つからない存在でもあると語る。
「タレントさんで、オール世代が知っていて、みんなが好きな人って本当に少ないでしょ? しかもそういった人は、普通はギャラが高かったり、使いづらかったりするものです」(こやまさん)
ここでいう「人間のタレントは使いづらい」という印象は、事務所・タレント本人が打ち出したい「イメージ」によるものである。ギャグっぽい内容にしたいものの、イケメンで売っているタレントであれば、それはイメージに合わないとして、事務所にオファーを断られることもあるかもしれない。だが、アニメキャラの場合は明確な世界観と設定があるだけに、お互いにそういった食い違いがないのだ。
前出サイボーグ003に関し、こやまさんは、「スタッフサービスのサイボーグ003だって、『耳がいい・目がいい』という特徴は、原作で決められた揺るがない話であり、読者・視聴者にとってもコンセンサスだったりするので企画しやすいし、面白くなりやすいのではないでしょうか」と語る。
2009年に酒井法子・押尾学という過去の大スターが相次いで逮捕されたが、その時、二人が過去に出たドラマはいずれも「お蔵入り」となり、もはや再放送は難しいだろう。また、CM契約中に突然の「できちゃった婚」を発表した場合は関係者が右往左往した挙句、契約を破棄する例などもある。アニメキャラの場合は、とりあえず不祥事を起こすことはない。
そういった利点もあるCMへのアニメキャラ使用だが、注意したいことも。こやまさんは「アニメキャラは権利者からの許諾を取るのがかなり大変で、どれだけお金がかかるんだ? ということもあります。企画会議の段階では“面白いけど、難しいだろうね”となんとなくみんなが認識しています」とも。その意味では、安易に企画は立てられなさそうだ。