高度経済成長以来、「モノづくりニッポン」の根幹を支えてきた世界一の技術力は、もはや幻となりつつある――。となれば、産業空洞化の波が止められないのは必然である。しかし、だからこそ国内製造業の復活は可能ともいえる。
その衰退が、どうしようもない外部要因ではないからである。あえて日本国内の工場を新設・強化し、「国内生産」に回帰して成功する企業が出始めていることも事実である。あくまで国内生産の利点を最大限に活かすことで勝算を見出しているからこそ、戦略として実践しているのである。
国内生産の「強み」にいち早く気がついたのは、皮肉にも米国発の企業だった。世界最大のパソコンメーカーの日本法人・日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)である。
日本HPは、2003年から東京・昭島工場で、国内法人向けのデスクトップ型パソコンの生産を開始した。
米国本社からは当初「中国で作ったほうが安い」と反対されたが、国内生産にこだわることで他社と差別化を図る「2つの新機軸」を打ち出したことが功を奏した。顧客の注文通り1台ずつ仕様の異なる製品を作る「完全受注生産」と、その製品を注文を受けてからわずか5日で顧客に届けるという「短納期」だ。
同社の岡隆史・副社長が語る。
「完全受注生産なら大量の在庫を抱えるリスクが無くなるだけではなく、特定の企業、特定の事業所、特定の従業員に向けたオーダーメイドのパソコンを作ることさえ可能になります。これは大量生産前提の生産ラインを持つ中国では困難なこと。1台1台違うものを作らせようとしても、そのノウハウを現地の技術者たちに蓄積させるのは非常に難しい。国内生産に適したシステムなのです」
また物流のスピード化も大きなメリットだ。
「中国で生産していた頃は、お客様に製品が届くまで2週間はかかっていた。日本の顧客は世界で最も納期に厳しい。業界では平均的な納期ですが、競合他社との競争力を考えれば、納期は短ければ短いほどいい。国内生産にしてからは注文から5日で確実に納品でき、緊急時にはさらに短縮することも可能になりました」(前出・岡氏)
きめ細かなオーダーメイドとスピード納品が評価された結果、日本HPの法人向けデスクトップ型パソコンの国内シェアは、国内生産開始時の10%から20%に倍増。首位を争うまでになっている。
※週刊ポスト2012年2月3日号