言うまでもないが、新聞の言葉遣いは役所の言葉遣いと異なる。それは限られたスペースに多くのニュースを盛り込むために表現を簡潔にしたり、読者に分かりやすくするためだ。ところが、それゆえに政府が抱いている真の思惑が読者に伝わらなかったり、ときには誤解を生じたりもする。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が具体例を挙げて解説する。
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たとえば、消費税引き上げをめぐる論議もそうだ。
「政府・与党は6日午前、社会保障改革本部(本部長・野田佳彦首相)を開き、消費増税を柱とする『税と社会保障の一体改革』素案を決定した」(1月6日付、毎日新聞夕刊)
この記事は後段で「増税前に衆院議員定数の削減や公務員人件費カットを実施する方針を掲げるなど、多くのハードルも課した」と報じている。他紙もほぼ同様である。
これだけ読むと、あたかも議員定数や公務員人件費の削減が増税の前提条件になったように受け取れる。ところが、実際の政府文書はどうなっているかというと、実は極めてあいまいなのだ。
政府の文書には「具体的には消費税率引上げまでに、国民の納得と信頼を得るため、以下の通り、政治改革・行政改革を期す」という文言もある。ここで「期す」とは「将来に向けて約束する」といった意味だ。増税前に必ず実行する必要はない。
具体的な改革の中身となると「独立行政法人改革、公益法人改革、特別会計改革、国有資産見直し等の行政構造改革に向けた取り組みを進め(中略)所要の法案を早期に国会に提出し、成立を図る」と、もっと玉虫色になっている。法案の国会提出時期は単に「早期に」というにすぎない。
これに対して、肝心の消費税率はどうかと言えば「2014年4月1日より8%へ、15年10月1日より10%へ段階的に引上げを行う」と誤解を生む余地がないように、はっきり書いている。
つまり、こういうことだ。官僚の文章はあたかも改革に力を入れるような体裁をとりながら、実際にはいくらさぼってもいいように逃げ道を用意している。一方で、とるものはしっかりとるように決め打ちする。いわゆる「霞が関文学」である。
これに対して、新聞は文書の細部にそれほどこだわらない。ふわっと「増税前に改革ならいいじゃないか」と受け止めて記事を書いてしまう。その結果「政府もそれなりに考えているらしい」といった好意的な誤解が生じてしまうのである。
役所が「検討する」というのは「先送り」という意味だ。「所要の措置を講じる」は自分たちに都合が良ければ「法律をつくる」だし、都合が悪ければ「先送りの措置を講じる」である。
まさに「悪魔は細部に宿る」。新聞はそこを見抜かなければならない。
※週刊ポスト2012年2月3日号