今年2012年は、アメリカとロシアの大統領選が同時に行われる。そして、その勝敗の組み合わせが、大きく世界の変動要因になるという。特に注目は、アメリカ大統領選の行方だ。以下は、落合信彦氏の解説だ。
* * *
3月にロシア大統領選挙が行なわれる。プーチンの勝利は濃厚だが、6年の任期を手に入れたプーチンは何を目指すのか。
プーチンは既に旧ソ連諸国を地域統合する「ユーラシア同盟」の構想を打ち出している。これを単に統一経済圏の構築であると考えてはならない。ロシアは軍事的に世界の中でのプレゼンスを高めようとしている。
それは、ロシアが参加して2001年に発足した上海協力機構の例を見ても明らかである。ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン(通称・上海シックス)という参加国は当初、上海協力機構は軍事同盟ではない、というスタンスを取っていた。
しかしその後、大規模な合同軍事演習を行なうなど、アメリカ中心のNATO(北大西洋条約機構)に対抗するスタンスを明らかにしている。プーチンのロシアは、NATOに対抗しなければならないと考えている。
そこで鍵となってくるのが、やはり11月のアメリカ大統領選挙の結果なのである。外交センスも能力もない民主党のオバマが勝利すれば、アメリカの弱腰対応が続く。そうすればロシアに続いて、イランやパキスタンといった、「ならず者国家」までも増長する。
現に彼らは上海協力機構に入りたがっている。興味深いのは、この機構のメンバー国全てが、ロシア、中国と同様に、腐敗と専制に満ちた国家であるということだ。世界はさらなる混沌に陥ることが目に見えている。
では、共和党が勝利すればどうなるだろうか。共和党の、特にリック・サントラムやニュート・ギングリッチのような保守派が勝利した場合、唯々諾々とロシアの増長を許しはしないだろう。
オバマ再選のケースよりはよほどマシだが、このケースでは別の懸念が持ち上がってくる。ロシアのブラッフ(はったり)に、共和党保守派はブラッフで返す。エスカレートすれば、両国間の緊張はいやでも高まる。
火種は「ミサイル防衛計画」だ。この計画は、アメリカがポーランドやチェコといった東欧諸国に迎撃用ミサイルを配備しようというもの。アメリカはイランの脅威への対抗策だとしているが、ロシアへの牽制を兼ねていることは明白だ。
何よりも、ロシア人は自国の目と鼻の先にアメリカのミサイルが並ぶことなど耐えられない。そして、そうした国民感情はプーチンにしてみれば「強いロシア」をアピールする格好のチャンスとなる。既にポーランドの東隣に位置するベラルーシに、対抗策としてロシアの最新型ミサイルを配備する計画が動き出している。
昨今ではアメリカと中国の衝突を懸念する声が大きいが、ロシアの科学力、技術力は、中国とは比較にならないほどの高水準にある。米中間の緊張の高まりよりも深刻な米露の軍拡競争が、既に始まろうとしているのだ。
冷戦下にあった1980年代、アメリカ大統領だったロナルド・レーガンは「スターウォーズ計画(SDI、戦略防衛構想)」を打ち出した。宇宙衛星と地上の迎撃ミサイルを連動させ、ソ連の大陸間弾道弾を撃ち落とそうという壮大な計画で、ソ連がこれに対抗し、軍拡競争へと発展していった。
今起きようとしている事態は、この冷戦下の競争と重なって見える部分がある。アメリカの東欧でのミサイル防衛計画はさしずめ「ミニチュア・スターウォーズ計画」と言っていいだろう。
※SAPIO2012年2月1・8日号