福島第一原発事故は、電力業界の歪んだあり方を白日の下に晒した。事故そのものへの対応とともに、その土壌となった電力行政と業界の改革が求められる。著書『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館10新書)で電力業界に張りめぐらされている「おバカ規制」を批判してきた原英史氏が“まやかしの電力自由化”にメスを入れる。
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案の定、東京電力が電気代の大幅値上げを言い出した。
東電は今年4月から政府認可が不要の企業向け電気料金(契約電力50 kW以上)を2割値上げする方針を打ち出した。一方の家庭向け電気料金の変更は政府(経済産業相)の認可が必要だが、東電はこちらも値上げを申請する方針。
「原発の再稼働に見通しが立たないから、代替する火力発電所の燃料費がかさむ」というのが東電の主張である。
枝野幸男・経産相は、西沢俊夫・東電社長に対し、「値上げは電気事業者の権利であると万一考えているのなら、改めてほしい」と牽制したが、本当に値上げが必要なのかという電力のコスト構造を検証しない限り、「値上げするな」だけでは通用しない。
実は、既に東電管内では、昨年12月まで10か月連続で家庭向け電気料金が値上げされていた。
前述のように、一般家庭向けの電気料金は認可制度があり、本来は電力会社が勝手に値上げできない仕組みだが、原油、天然ガスなどの燃料費が上下した時には「燃料費調整」という名目で政府認可がなくても料金を上げ下げできる。昨年の料金値上げは、この「燃料費調整」という抜け道を使ったものだった。
東電サイドの説明によれば、3月以降の原発稼働停止に伴い、天然ガスの調達を急遽拡大したことで価格上昇した面が大きいという。確かに、中東・アフリカ産のLNG(液化天然ガス)の日本向けスポット価格は、震災前の100万BTU(英国の熱量単位)あたり9~10ドルから、夏場には15~16ドルまで上昇した。
しかし、世界のエネルギー市場に目を向けると、全く異なる光景が見えてくる。
世界的には、天然ガスの価格は下落傾向だ。原因は、2010年前後に米国で起きた「シェールガス革命」。従来は、地中から取り出すことが難しかったシェールガスが、採掘技術の進化で利用可能な資源に一変。結果、米国は2009年に世界最大の天然ガス生産国になり、その影響で余ったLNGが欧州に転売され、欧州の価格も下がった。
米国の指標であるニューヨーク・マーカンタイル取引所の天然ガスの先物価格は、100万BTUあたり3.5~4ドル。欧州の指標でもせいぜい10ドル程度。日本は“世界一高い値段”で天然ガスを買っているのだ。なぜか?
理由は複数あり、日本企業が従来から石油価格とリンクした長期契約を結んできたことなどが挙げられる。
だが、根源的な理由は、「電気料金制度」だと言える。
日本のLNG輸入のメインプレーヤーである電力会社は、燃料費が上がれば、その分だけ「燃料費調整」で値段を上げ、消費者に価格を転嫁できる。それでは、輸出国側と交渉し、何とか調達価格を抑えようという気にならない。業界が競争から保護されていることの弊害が“世界一高価な天然ガス”となって表われているわけだ。大臣が口先だけで「値上げはいかがなものか」と言っても、制度的保護と体質にメスを入れない限り、国民はこの先も「高い電気代」を払わされ続けることになる。
※SAPIO2012年2月1・8日号