大相撲初場所はエストニア出身の大関・把瑠都の初優勝で幕を閉じた。貴乃花に並ぶ通算22回目の賜杯を目指した横綱・白鵬との直接対決には敗れたとはいえ14勝1敗の成績は、数字だけを見れば文句なしの優勝だろう。ところが、「来場所は綱取り」と盛り上がるはずが、土俵の周辺にそんなムードはない。
問題とされたのは、12日目の「注文相撲」だった。
大関・稀勢の里と対戦した把瑠都は、立ち合いで大きく左に変化し、稀勢の里はそのまま手をつくあっけない相撲。勝ち名乗りを受ける把瑠都には、場内から「帰れ、帰れ」という大ブーイングが起きた。
変化はもちろん不正ではなく、好意的に見れば勝ちにこだわった結果ともいえる。だが、この一番が横綱昇進への足かせになっているのは間違いない。
横綱審議委員会の鶴田卓彦・委員長は、
「役力士は正々堂々と勝負すべき。変化するのは好ましくない。(連覇でも)質、内容を見ないと(昇進は)文句なしとはいえない」
とコメントした。
「成績は残しても、品格が不十分」――元横綱・朝青龍の時代に度々聞かれた言葉で、ここまでは「よくあること」だった。しかし、審判部長の貴乃花親方もそれに同調する姿勢を見せたのは驚きだった。
把瑠都の横綱昇進に関し、コメントを求められた貴乃花親方の言葉はこうだ。
「今場所は終わったばかりだから、来場所にならないと(綱取りは)わかりません」
相撲ジャーナリストが語る。
「冷静なコメントに思えますが、静かな怒りを感じます。角界は2年以上も白鵬の1人横綱時代が続いており、新横綱は是が非でもほしいはず。特に後進の成長を喜ぶ貴乃花親方なら、“頑張ってほしい”といった前向きなコメントが出るのが普通です。それがここまで突き放すような言い方をした。これには深い理由がある」
注文相撲以外にも、貴乃花親方が昇進を認めない事情があるというのだ。
ある古参親方はこう語る。
「まず把瑠都の素行が悪いわな。これまでも何回か問題になってきたからね」
昨年3月に八百長問題で大阪場所が中止された際、把瑠都はジャージ姿で繁華街に繰り出して、相撲協会から厳重注意を受けた(力士は外出時は着物か浴衣の着用が義務づけられている)。さらに5月の技量審査場所では、不謹慎にも「遊びの場所みたい」と失言して、やはり協会から注意された。
おまけに、把瑠都の師匠である尾上親方(元小結・濱ノ嶋)は酒気帯び運転で処分を受け、八百長問題では部屋の関取3人(山本山、境澤、白乃波)が角界を追放された。そうした環境面も問題視されている。
「こうしたことから、協会が横綱昇進に慎重になっている。協会では1月30日に新執行部体制がスタートする。その船出を“問題横綱”に万が一足を引っ張られてはたまらない、朝青龍の二の舞は御免、ということだ」(前出の親方)
※週刊ポスト2012年2月10日号