大阪市の橋下徹市長は1月18日、大阪府外から、西成区にある日雇い労働者の街「あいりん地区」周辺に転入してくる子育て世代を対象に、市民税や固定資産税を一定期間免除するなどの優遇措置を盛り込んだ「西成区特区構想」を打ち出した。
当初の区長兼任プランは、法律上無理だと判明して撤回したが、「西成区が変われば大阪が変わる」、「西成区をえこひいきする」と公言する橋下氏は、区政運営に直接関与する“直轄方式”を表明。区民を対象にした私立小中学校の授業料補助、市職員や警察官の重点配備による治安改善など、西成改革のためのアイデアを次々と語っている。
橋下氏の“えこひいき”には理由がある。
人口約12万人の西成区は数々の不名誉な市内ワースト記録を持つ。生活保護受給者は約2万8000人、受給率は約24%。ゴミの不法投棄量はなんと市内の4割を占め、結核罹患率も断トツだ。
ところが、この状況を変えようとする政策に、なぜか住民たちから不満の声が上がっている。日雇い仕事にあぶれた人や、生活保護の申請に訪れる人でごった返す区役所では、怒鳴り声が飛び交う。
「なんで新しく来た人だけ税金安なるの? ウチの子も学費タダやないと承知でけへん。えこひいきはようないし、そんなことしたら橋下人気もそれまでやで!」(主婦)
商店街の店主が語る。
「西成特区も結構やが、それやったらワシらも減税してほしいわ。西成区として迷惑がかかっとるのは、商売しよるワシらやで」
これには区役所の職員も閉口気味だ。
「正直、頭が痛いですわ。橋下市長は現場にはまったく打診のないまま、すべてマスコミを通じて発表してしまう。それでいて区役所には抗議や問い合わせが殺到でっしゃろ。電話ならまだしも、西成には時間を持て余した人がたくさんおるから、何かあったら直接窓口に来はるんです。ウチの区は特に、手当や補償とかにはものすごい敏感。それで説明に時間がかかる。通常の業務ができませんわ」
※週刊ポスト2012年2月10日号