「行きたいのではなく、行かなくてはいけない」
1月24日、札幌ドームに集まったファンを前にメジャー挑戦について語ったダルビッシュ有。時折、目に涙を浮かべる姿は多くのファンの感動を誘ったが、ダルビッシュを待つ新天地はけっして甘くはない。
なんせ、移籍したレンジャーズのホームスタジアムといえばメジャー球界きっての“ピッチャー泣かせ”球場として知られているからだ。メジャーリーグ研究家の福島良一氏がいう。
「レフトポールまでが101.2mなのに、ライトポールまでが99.1mと2mも短いうえ、右中間には“ホームランポーチ”と呼ばれる屋根付きの観客席がせり出している。その下にブルペンがあり、左中間と比べ4mも短いのです。さらに、ライトスタンドのフェンスはレフトより低く、左打者に有利な構造になっている。右投げのダルビッシュにとって相性の悪い左打者に利する球場がゲームの半分を占めるのだから、なかなか簡単ではない」
昨年のレンジャーズの本拠地で出たホームランは30球団で一番多い228本。得点数もメジャーで一番多い896得点。この数字からも、メジャー30球団で最も打者に有利な球場ということがわかる。ダルビッシュも入団会見で「右中間のフェンスを削ってほしい」と話し、会場の笑いを誘ったが、あながち冗談でもない。その上、マウンドや気候までもが、味方ではなく「敵」。
「メジャーのマウンドは日本と比べて硬く、まず日本人投手の誰もがそこに苦戦しますが、レンジャーズの球場はそれに加えて打者有利の条件が揃っている。夏には気温が40度を超え、空気も乾燥しているので他の球場より打球の飛距離が伸び、球脚も速くなる。これにより長打やホームランが出やすくなります」(福島氏)
つまり、ダルビッシュが移籍するレンジャーズのホームグラウンドには、【1】ホームランポーチがあるので、本塁打が出やすい、【2】ライトフェンスがレフトの4.3mに対して2.4mしかない、【3】ブルペンがあるので右中間が狭い、【4】マウンドの土が硬い、【5】空気が乾燥しているため、球がよく飛ぶ――という5つの「敵」が待ち受けているのだ。
しかし、真剣勝負を求めて海を渡ったダルビッシュにはこれくらいが丁度良い気もする。日本のエースの正念場は、これからだ。
※週刊ポスト2012年2月10日号