北朝鮮の最大の権力集団は軍部である。金正日存命中はシビリアンコントロールができていたが、その死で軍部をコントロールできる存在がいなくなったとコリア・レポートの辺真一編集長は指摘する。軍事挑発が起きる懸念も出始めている。果たしてどんなシナリオが考えられるのか、辺氏が分析する。
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当然予想される核実験などに加え、もうひとつの危険なシナリオがある。それは5~6月の「ワタリガニ合戦」だ。例年、この時期になると黄海上の北方限界線(NLL)付近は、ワタリガニのシーズンとなり、中国、北朝鮮、韓国の漁船がひしめき合う。海上の軍事境界線であるため毎年トラブルが発生する。
つまり、コントロールを失った北朝鮮軍部がこの機に、海上の軍事境界線の問題に決着をつけるため、再び挑発に出る可能性があるのだ。
2010年3月、北朝鮮は韓国の哨戒艦を撃沈し、同年11月には延坪島を砲撃した。この2つの事件は一般に金正恩の「暴挙」とされている。だが、北朝鮮はこの2つのアクションを起こすことで、NLLが不当であることを韓国に認めさせ、米国を平和協定に引っ張り出す作戦だった。しかし、米韓ともに北朝鮮の手には乗らなかった。この作戦に失敗した北朝鮮は、次は米韓が妥協せざるを得ないようなもっと大きな軍事挑発を仕掛けてくるだろう。
韓国国防部長官は、北朝鮮が軍事挑発してきた時には、2度と手が出せないように徹底的に叩くと宣言しているように、韓国が応戦すれば、黄海上での局地戦が起きる危険があるのだ。
局地戦になった時、米国、韓国、そして国際世論がはじめて海上の境界線と平和協定の重要性を認識する。それこそが軍事国家、北朝鮮の狙いなのである。
※SAPIO2012年2月1・8日号